設計者は、何を知ろうとしているのか

初めて相談に来られた方にお会いしたとき、いきなり間取りや部屋数の話をすることは、ほとんどありません。むしろ、家づくりとは関係のないような雑談から始まることが多いように思います。

初めての設計相談では、むしろ「何から話せばいいのか分からなくて・・・」と話される方が多いかもしれません。そんなとき、私は暮らしについての何気ない話を伺うことから始めます。

先週の休みには何をしていましたか。
子どもの頃、好きだった場所はありますか。
また行きたくなる場所はありますか。

そんな話をしているうちに、その人らしい暮らしが、少しずつ見えてくることがあります。

私が探しているもの

何気ない会話をしているのは、世間話をしたいからではありません。

その人が、どんな場所で心地よいと感じるのか。
どんな時間を大切にしているのか。

その手掛かりを探しています。

子どもの頃に好きだった場所を伺うのも、その場所をそのまま再現したいからではありません。

その場所の何が心地よかったのか。
どんな空間の質に惹かれていたのか。

一つひとつの言葉をつなぎ合わせながら、その人らしい暮らしを少しずつ思い描いていきます。

プラン検討中スケッチ

暮らしの輪郭を思い描く

一つひとつの質問に、正解があるわけではありません。

「先週の休日の過ごし方」と「子どもの頃に好きだった場所」は、一見すると関係のない話のように思えます。でも、そうした小さな言葉を少しずつ重ねていくと、その人らしい暮らしの輪郭が見えてくることがあります。

休日は家でゆっくり過ごしたい。
自然の中にいると落ち着く。
家族の気配は感じていたいけれど、一人の時間も大切にしたい。

一つひとつは小さな点です。その点が少しずつつながったとき、「この人は、こんな空間で過ごせたら心地よいと感じるのかもしれない。」という情景が、少しずつ思い浮かんできます。

対話の中で見えてくるもの

対話を重ねていると、住まい手自身も、自分が本当に求めているものに気付く場面があります。

「そう言われると、確かにそうですね。」
「今まで考えたことがありませんでした。」

そんな言葉が返ってくることがあります。

それは、私が答えを教えているからではありません。一緒に考えていく中で、新しい見方が少しずつ生まれてくるからです。

例えば、「書斎が欲しい」というご要望をいただくことがあります。そこで私は、「どんな時間を過ごしたいのですか。」と伺います。

一人で考えごとをしたいのか。
仕事に集中したいのか。
趣味を楽しみたいのか。

話を重ねていくと、本当に求めていたのは「書斎」という部屋ではなく、一人になれる時間だったと見えてくることがあります。さらに話を伺うと、完全に一人になりたいわけではなく、家族の気配は感じていたい、ということもあります。

家族がそれぞれ違う時間を過ごす空間

そうなると、考えるべきなのは書斎の広さではありません。家族との距離を、どのように設計するか。

そこから、その人に合った居場所が、少しずつ見えてきます。

人は変わっていく

住まい手と話をしていると、一つの答えだけにたどり着くことは、ほとんどありません。

家族との距離感も、一人で過ごしたい時間も、その時々で変わります。子どもが小さい頃と、成長した後では、暮らし方は変わります。十年後には、今とは違う時間を大切にしているかもしれません。

だから私は、一つの要望だけにぴったり合わせた住まいをつくろうとは思いません。

少し暮らし方が変わっても、その人らしく過ごせる住まいであってほしい。

変化していく住まい

建物が完成したときが終わりではありません。暮らしが始まり、住まい手が少しずつその場所を育てていく。私は、その変化も含めて設計したいと思っています。

設計とは、図面を描く前に、その人の暮らしを知ることから始まるのだと思っています。

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