
家づくりでは、キッチンや浴室、エアコンや照明器具など、さまざまな設備を選びます。
性能が良くなり、新しい機能が増えると、暮らしがもっと快適になるような気がします。新しい設備を選んでいる時間は、それだけで少しわくわくするものです。
カタログを見比べながら、「こちらの方が使いやすそう」「この機能は便利そう」と考える時間も、家づくりの楽しみのひとつではないでしょうか。
でも、実際に暮らし始めてから「良かった」と感じることは、カタログに書かれていないことも少なくありません。
家づくりには、数字で比べやすい価値もあれば、暮らして初めて分かる価値もあるように思います。
建築にもできることがある
夏の暑さや冬の寒さを快適にするためには、エアコンや暖房設備が欠かせません。
近年の猛暑を考えれば、風だけで涼しく過ごせる家を目指すのは現実的ではないでしょう。私の家でも、真夏はエアコンを使っています。
だからといって、快適さをすべて設備に任せてしまうのは少し違うように思います。建築にも、できることがあるからです。
例えば夏であれば、庇や簾(すだれ)で強い日差しを遮ることができます。窓の配置を工夫すれば、自然の風が家の中を通り抜けます。Low-Eガラスを使えば、日射熱が室内に入りにくくなります。
冬には、断熱性能を高めて暖かさを外へ逃がしにくくする。さらに窓から日差しを取り込み、その熱を室内に活かす。そうした工夫によって、設備はより効率よく働くことができます。
設備だけでなく、建築にも快適さを支える役割があります。
私は、その積み重ねが住まいの心地よさにつながっていくのではないかと思っています。
暮らして初めて分かること

そのことを実感したのは、自分自身が暮らし始めてからです
住み始めてから、少しずつ気づく心地よさがあります。
例えば、初夏や晩秋。窓を開けると、家の中を爽やかな風が通り抜ける日があります。
わが家は、南北に窓を設け、高さにも少し変化をつけています。南側から入った風が天井近くの窓へ向かって流れていくと、部屋の空気が少しずつ入れ替わっていきます。
エアコンを止め、窓から入る風と木々の葉が揺れる音を聞きながら過ごす時間は、とても気持ちのいいものです。
もちろん、真夏の暑さは自然の風だけでは乗り切れません。私の家でもエアコンを使っています。でも、季節によって窓を開けて過ごせる日があることも、この家の魅力の一つです。
冬になると、その心地よさはまた違った形で現れます。
朝、目が覚めても、寒さを覚悟して布団から出ることがありません。夜中にトイレへ行くのも苦にならない。
以前住んでいた家では、冬の朝には室温が0℃近くまで下がることもありました。布団から出ることも、風呂で服を脱ぐことも、小さなストレスでした。
今では、寒さを意識すること自体が少なくなりました。
暮らし始める前は、こんな小さな違いが毎日の暮らしを変えるとは思っていませんでした。
でも、一年、また一年と暮らしていく中で感じるのは、毎日を気持ちよく過ごせることの豊かさです。
こうした心地よさは、カタログには書かれていません。暮らし始めてから、毎日の積み重ねの中で少しずつ気づいていく価値なのだと思います。
現場が教えてくれたこと
こうした心地よさは、自分だけが感じていることではないのかもしれない、そう思う出来事がありました。
ある夏の日、リノベーション工事の現場でのことです。断熱工事が終わってしばらくすると、大工さんがこんなことを話してくれました。
「断熱材を入れてから、現場の中がずいぶん涼しくなったね。」
外は変わらず暑い日でした。それでも、家の中を通り抜ける風が心地よく感じられ、作業がずいぶん楽になったそうです。

また、ホテルの設計をしていたとき、設備設計者からこんな話を聞いたことがあります。
「空調は風量を増やせば体感温度を下げることはできます。でも、人は強い風を長時間受け続けると、かえって不快に感じてしまうんです。」
その言葉が、とても印象に残っています。
現場での何気ない会話が、自分の中にあった感覚を少しずつ確かなものにしてくれました。
長く残るものにお金をかける
設備は、暮らしを快適にするために欠かせないものです。だから私は、設備が不要だとは考えていません。むしろ、現代の暮らしには欠かせない存在です。
ただ、多くの設備機器は10年、15年と使えば、いずれ更新の時期を迎えます。
一方で、断熱材や窓の配置、日差しや風を取り込む工夫は、一度つくると建物とともに長く残ります。毎日の暮らしを支える土台として、何十年も役割を果たし続けます。
家づくりでは、設備も建築も、どちらも大切です。
限られた予算の中で何を優先するかを考えたとき、私は長く暮らしを支えるものを大切にしたいと考えています。
もちろん、設備もいつかは交換します。そのときに無理なく更新できるよう、設備は交換しやすい計画にしておくことも大切です。
その価値は、カタログには書かれていません。私は、長く暮らしを支えてくれるものを大切にしたいと考えています。
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