コストを抑えて高断熱住宅を実現する方法

多くの方は家を作る際には、できる限り断熱性能を上げ、快適な暮らしを実現したいと考えるのではないでしょうか。年々、電気料金は値上がりし、温暖化の影響で夏の最高気温が上がっていることを考えれば、高断熱住宅を実現したいと考えるのは当然です。ただ、建材費の高騰に伴い、建設費が上がったことで、断熱性能を上げることを躊躇されている方もいるのではないでしょうか。

建設費を抑えながら、できる限り断熱性能を上げるにはどうすればよいか。その問いに対して、設計者としての今までの経験を踏まえて一つの答を皆さんに伝えたいと思います。大切なポイントは、以下の3つです。

  • 高断熱住宅に求められる断熱性能を把握すること
  • グラスウール断熱材をできる限り使うこと
  • 適切な仕様でグラスウール断熱材を採用すること

2021年10月に「高断熱住宅にするには、いくら費用が掛かるのか」といったテーマで記事を書きましたが、その後、断熱等級の見直しや建材費の値上がり、各メーカーの断熱建材の商品開発などがあり、状況が変わってきましたので、最新の情報を盛り込んで記事内容を更新しています。

高断熱住宅に求められる断熱性能を把握する


まずは「高断熱住宅」とは、どのような断熱性能の建物のことを呼ぶのか、です。2022年に法律改正が行われ、断熱性能の基準は、断熱等級1~7まで7つのランクに分けられました。もっとも高い性能を持つ建物が断熱等級7、もっとも低い建物が断熱等級1となります。では、どの程度の断熱性能があれば、高断熱住宅と呼べるのか?というと、実は厳密な定義がありません。

基準がないなら、どんな性能でも高断熱住宅と呼んで良いのか、といえばそんなことはありません。建築業界の一般的な目安としては、断熱等級5以上が求められる最低基準となります。少なくとも断熱等級5以上、等級6や7であれば間違いなく、高断熱住宅と呼ぶことができます。とはいえ、断熱等級5をクリアする数値ギリギリでも高断熱かといえば、そんなことはありません。性能を数字で競っている訳ではありませんので、余裕をもって断熱基準をクリアすることが求められます。

求められる断熱性能は、平均気温が異なる地域ごとに異なるので一概には言えませんが、例えば新潟市内であれば断熱等級5を満たす外皮熱貫流率Ua値は、0.6W/m²K以下ですので、余裕をもって0.5W/m²K程度を実現した住宅は高断熱住宅と呼んで良いのではないかと思います。(参考までに新潟市内ではUa値0.46W/m²K以下が断熱等級6です)

併せて、断熱性能とは別に気密性能も重要です。気密性能が低い場合には、いくら断熱性能を上げても、断熱効果を十分に発揮できません。気密性能を示すC値(相当隙間面積)を1.0cm²/m²以下に抑えることが推奨されます。同様に、断熱材内の空気が動かないよう、気流留め処理を行うことが有効です。

まとめると、高断熱住宅と呼ぶには、少なくとも以下の2つを満たしていることが条件となります。

  • 断熱等級5以上(できればぎりぎりでなく、余裕をもって数値クリアすること)
  • 気密性能 C値(相当隙間面積)1.0cm²/m²以下

グラスウール断熱材をできる限り使う

建物の断熱性能を上げるには、天井、壁、床、基礎などの外気と接する部分に性能の高い断熱材を適切に施工しなければなりません。併せて、開口部サッシに断熱性能の高いサッシを採用することで、全体の断熱性能を向上させることができます。

2025年現在、建材各社からは、発泡系、繊維系、自然素材系などのさまざまな断熱材が発売されていますが、性能や仕様などがそれぞれ異なります。では、その中で最もコストパフォーマンスの高い断熱材は、どれなのか。それぞれサイズや性能が異なるため、材料費だけでは比較がしにくいので、熱抵抗値R当たり、かつ、㎡材料単価で比較してみると、最も安い断熱材は、「グラスウール断熱材」となります。

下の比較表は、新木造住宅技術研究協議会(略して新住恊)の2023年技術資料より抜粋しています。こちらの表は、価格表示ではなく、建材販売店の実勢販売価格=「工務店価格」を元に作成されています。表の最上段が、16kg/㎡グラスウール断熱材の㎡・R値単価で最も安く、表の下へ行くほど単価が割高となっています。PSFと表記されているのは、発泡系断熱材を示しています。

グラスウール断熱材は、全国どこでも簡単に手に入り、輸送時には空気を抜いた圧縮したコンパクトな状態で運ばれるので、流通費用が抑えられる利点があり、大工さんにも馴染ある断熱材です。そのため、採用にあたって特殊な工具や技術が必要なく、導入ハードルが低いといった利点もあります。

ただし、気密フィルムの留め方や施工部位の納め方など、施工時に押さえておかなければいけない大事なポイントがあるので、高断熱の経験のある現場監督や施工講習を受けた大工さんに工事をお願いすれば、確実に性能を担保できます。

各々の断熱材は、施工方法や施工部位に得意・不得意がありますので、適材適所で用いることが求められます。もし外からの音を遮音したければ、セルロースファイバー断熱材を使うのが有効ですし、施工する隙間がとれない場合や湿気が多い場所に施工するなら発泡系断熱材が有利であるなど、求める条件や施工箇所によっては、グラスウールでない他の断熱材が有効なケースもあります。しかし、一般的な木造住宅であれば、グラスウール断熱材を採用することで、コストを抑えながら、効率よく断熱性能を上げることができます。

適切な仕様でグラスウール断熱材を採用する

高断熱住宅の目安である、断熱等級5を実現するには最低限、どの程度の仕様のグラスウール断熱材が必要となるのでしょうか。例として、新潟市内の木造2階建て住宅を元に計算してみます。断熱部位には、できる限りグラスウールを採用しました。新潟市内で断熱等級5をクリアするには、外皮熱貫流率Ua値0.6W/m²Kを下回らなければなりません。

【計算する住宅の基本データ】
建設地:新潟市
建物規模:木造2階建て 延床面積109.30㎡
天井断熱:20kg高性能グラスウール 厚170mm
外壁断熱:14kg高性能グラスウール 厚105mm
床下断熱:20kg高性能グラスウールボード 厚90mm
土間床基礎断熱:スタイロフォーム1種 厚25mm
窓サッシ:アルミ樹脂複合サッシ(リクシル/サーモスⅡ-L)サッシ窓×20か所

上記の断熱仕様で、外皮性能計算ソフトQPEXで計算してみると、外皮熱貫流率Ua値=0.49W/m²Kとなりました。0.6を余裕で下回っているので、断熱等級5、高断熱住宅の断熱条件を十分クリアしています。一般的なグラスウール断熱材だけで、簡単に高断熱住宅を実現することができることが分かります。

下に挙げた計算結果を見ると、エアコン冷暖房に要する光熱費は電気料金39円/kWで計算して、年間12万551円となっています。月別暖冷房負荷を見ると、地域が新潟市ということもあり、冬場の暖房負荷が高くなっています。

以前は、グラスウール建材の断熱性能が低く、外壁の外側に断熱材を2重に付加しなければ高断熱住宅を実現することは難しかったのですが、メーカーの開発努力により2025年の時点では付加断熱しなくとも、また特段、高度な施工をしなくとも高断熱住宅を実現することが可能になりました。上記の計算では、高断熱住宅を実現するための最低限の仕様を求めるため、グラスウール断熱材の仕様を低めに設定していますので、さらに断熱性能の良いグラスウール断熱材を採用すれば、断熱性能を向上させることも可能です。同様にサッシをアルミ樹脂複合サッシから樹脂サッシに変えれば、さらに性能アップが望めます。

断熱仕様を上げれば光熱費は大きく変わるのか?

参考までに上にあげた住宅で、天井と壁のグラスウール断熱材の仕様のみアップして計算してみます。断熱仕様を上げたことで、光熱費はどのくらい変わるのでしょうか?

【計算する住宅の基本データ(変更した条件)】
天井断熱:20kg高性能グラスウール 厚200mm厚170から厚さ増
外壁断熱:36kg高性能グラスウール 厚105mm(14kg製品→36kg製品へ断熱性能増
その他の仕様は、前の計算のまま


外皮熱貫流率Ua値=0.46W/m²Kとなり、断熱等級5→等級6へとランクが一つ上がりました。断熱材の仕様を少し変えただけなので、施工手間の費用がアップすることはありません。差額はあくまで断熱材の材料費の差だけで断熱性能アップが実現できます。

ただし、断熱性能は上がりましたが、年間の冷暖房費は5,500円/年程度しか下がりませんでした。闇雲に断熱材の性能を上げれば、費用対効果が上がる訳ではないことが分かります。このような断熱シュミレーションを行うことで、年間の冷暖房費費用が把握でき、どの部位を、どの程度まで断熱性能を上げれば有効に働くのかが、判断し易くなります。

コストを抑えて高断熱住宅を実現するためのポイント

最後に。コストを抑えて高断熱住宅を実現するには、3つのポイントがあります。ポイントを押さえて、ローコストで、かつ、高断熱な住宅を実現していきましょう。