新潟で住宅を設計していると、玄関の近くに少し大きめの収納を設けることがあります。雪かき用のスコップやスノーダンプ、長靴。濡れたコートや傘。雪国では、玄関の近くに置いておきたいものが意外とたくさんあります。
家の中まで持ち込みたくはない。でも、外に置きっぱなしにもしたくない。そんなものを受け止める場所として、私は玄関納戸をできるだけ確保するようにしています。

ただ、これまで設計した住宅を改めて振り返ってみると、玄関納戸に置かれているものは、雪国特有のものだけではないようです。
靴だけではない、玄関に置いておきたいもの
ある家では、ベビーカー。別の家では、キャンプなどのアウトドア用品。スーツケースや、生協などで届いたものの一時置き場として使うこともあります。畑のある家なら、収穫した野菜をひとまず置いておく場所にもなります。
どれも、普通の収納にきれいに収めにくいものばかりです。大きかったり、汚れていたり、濡れていたり、一時的に置いておきたいものだったりします。
こうしたものが家の中に入り込んでくると、収納から物が溢れ、家は狭く、雑多に見えてきます。だから私は、玄関を必要以上に広くするよりも、玄関納戸の方を広く設け、収納量を確保することがあります。実際に、玄関を必要最小限の広さに抑え、その分、玄関納戸を広くした住宅もありました。
濡れたもの、汚れたものを受け止める
玄関納戸の床は、モルタルやタイルで仕上げた土間にすることが多いです。理由は単純で、ここに置くものには、濡れたものや汚れたものが多いからです。
雪かきに使ったスコップ。雨に濡れた傘やレインコート。土のついたアウトドア用品や、畑から収穫してきた野菜。こうしたものを、いちいちきれいにしてから家の中へ持ち込むのは大変です。土間床であれば、外で使ったものをそのまま置いておくことができます。
玄関のすぐ近くに、外で使ったものをそのまま置いておける場所が少しある。それだけで、家の中へ持ち込まなくてよいものが、増えるように思います。
収納量は確保する。でも、つくり込みすぎない
もちろん、玄関納戸は広ければよいというわけではありません。
限られた面積を有効に使うためには、棚も必要です。私の場合、置くものに合わせて高さを変えられる可動棚を設計することが多いです。

ただ、収納するものを最初から細かく決めて、棚や家具でいっぱいにしてしまわないようにもしています。暮らしているうちに、必要なものは変わるからです。子どもが小さい頃にはベビーカーが置かれていた場所に、数年後には別のものが置かれているかもしれません。新しい趣味が始まれば、道具が増えることもあります。
家を設計している時点で、これから先、そこに何が置かれるのかをすべて予測することはできません。だから、収納量はきちんと確保しながらも、用途を決めすぎない場所を残しておく。何も置かないためではなく、これから何が置かれてもいいように、少し空けておく。
そんな余白が、玄関納戸には必要だと思っています。
収納するだけの場所ではない
玄関納戸には、可動棚のほかにハンガーパイプを設けることもあります。帰宅したときにコートを掛けたり、雨に濡れたレインコートを一時的に掛けたりするためです。
また、玄関納戸の中や、玄関のすぐ近くに手洗いを設けた住宅もあります。家に帰ってきたら、荷物を置き、コートを脱ぎ、手を洗ってから家の中へ入る。

玄関から玄関納戸へ入り、その先の収納を通って室内へ繋がるようにした住宅もありました。
こうして振り返ってみると、玄関納戸で行われていることは、収納だけではありません。物を置く。コートを脱いで掛ける。手を洗う。そして、家の中へ入っていく。
玄関納戸は、物を受け止めるだけでなく、家に帰ってきた人の行動を受け止める場所でもあるのだと思います。
外から内へ切り替わる場所
こうした一つひとつの行動を考えていると、玄関という場所そのものについても考えさせられます。
私たちは玄関で靴を脱ぎ、コートを脱ぎ、荷物を置く。その何気ない行動によって、少しずつ外から家の中へと気持ちが切り替わっていくのではないかと思います。
私は、玄関を外から見たとき、あまり開放的に見えないようにすることがあります。外から家の中まで見通せるようにするのではなく、むしろ少し閉じておく。

その方が、家の中へ入ったときに、守られているような安心感を感じられると思うからです。
外で過ごしていた時間と、家の中で過ごす時間。その二つは、少し違うものであってほしいと思っています。外とは異なる空間と時間が、家の内側には存在していてほしい。
玄関は、その境目にある場所です。だから玄関は、単に靴を脱ぐための場所ではなく、外から内へ、気持ちを切り替えるための場所でもあるのだと思います。
玄関には、余白が必要
玄関納戸には、これから何が置かれるのかを決めすぎず、暮らしの変化を受け止められる場所を残しておく。
そして玄関は、外と家の中のあいだにある場所です。荷物を置き、コートを脱ぎ、靴を脱ぐ。そうしているうちに、外で過ごしていた時間から、家で過ごす時間へと少しずつ切り替わっていく。
家に入るということは、ただ外から内へ移動することではないのかもしれません。
物にも、人にも、切り替わるための少しの余白が必要です。
玄関は、そんな余白を受け止める場所であってほしいと思っています。
