玄関はただの出入口ではない|家の体験はここから始まる

玄関より奥をみる

家に帰ってきて、玄関のドアを開ける。

買い物袋を抱えている日もあれば、雨で少し濡れて帰る日もあります。仕事で疲れている日もあれば、家族と出かけて楽しく帰る日もあります。そんな毎日の始まりと終わりに、必ず通る場所が玄関です。

リビングやキッチンほど長い時間を過ごす場所ではありません。それでも、家の印象は玄関で決まることが少なくありません。

家に入った瞬間に見える景色。光の入り方。床や壁の素材。靴やコートを置く場所。外と内の距離感。

ほんの数歩の空間ですが、暮らしやすさに大きく影響しています。住宅の設計をするとき、私は玄関を単なる出入口として考えていません。家の中へ気持ちを切り替えるための場所であり、その家らしさが最初に現れる場所だと思っています。

家づくりの打合せでは、リビングやキッチンの話に多くの時間が使われます。一方で玄関は、広さや収納量を決めて終わりになることも少なくありません。

けれど玄関は、外から内へ気持ちを切り替える場所でもあります。だからこそ私は、玄関で何が見えるのか、どこから光が入るのか、靴や荷物をどのようにしまうのかを丁寧に考えるようにしています。

玄関は、毎日必ず通る場所

玄関には、多くの役割があります。

雨の日に買い物袋を抱えて帰宅する。子どもは濡れた傘を持ったまま先に家へ入ろうとする。コートを脱ぎたい。荷物も置きたい。そんな時に玄関が狭いと、小さなストレスが重なります。

さまざな行為が毎日、玄関で起きています。にもかかわらず間取りを考えるとき、とりあえずこのくらいの広さで、と適当に決まってしまうことがあります。LDKや水廻りに必要なスペースを確保した後、残った面積から決められることもあります。

でも、家族全員が毎日必ず通る場所が玄関です。朝の慌ただしい時間も、疲れて帰ってきた夜も、ここを通ります。その毎日の積み重ねが、暮らしの質に影響します。

外と内の間に、ひと呼吸をつくる

外には、外的ストレスがあります。

雨、風、寒さ、暑さ。道路からの視線、通行人の気配、車の音。仕事のストレス、1日の疲れ。

家の中は、それらから切り離された場所です。玄関は、その境界を担っています。

ただ扉一枚で外と中を仕切るのではなく、道路から少し奥まったアプローチや玄関前ポーチなど、少し奥行きのある空間を置くことで、外的ストレスを和らげることができます。玄関前に庇と袖壁をつければ、風除けになる。視線を遮れる。雨に濡れずに荷物を整理できる。気持ちを切り替えるゆとりが生まれます。

玄関ポーチ

ユニベールハウス岩室では、建物本体から張り出した木張りのボックスで玄関を囲っています。新潟は冬の西風が強い地域です。玄関ドアを開けた瞬間に風が室内に吹き込まないよう、ボックスが外的ストレスを受け止める緩衝帯として機能しています。

外から帰ってきて、まずボックスに入る。扉を開ける前に、ひと呼吸できる空間があります。扉一枚で外と内が繋がるのではなく、ワンクッション置くことで、安心感が生まれます。

家に入る体験を設計する

玄関正面の窓

玄関ドアを開けた瞬間に、何が見えるか。

正面に壁があるだけの玄関と、窓から光が入り、植栽が見える玄関では、帰宅したときの気持ちがまったく違います。これは広さの問題ではありません。何を見せるか、という設計の問題です。

帰宅の場面を順番に追ってみます。

玄関前でポケットから鍵を取り出す。鍵を回し、玄関ドアを開ける。正面の窓の外には緑が見える。カウンターに荷物を置き、手洗いを済ませる。上着を脱いでハンガーにかけ、靴を脱ぎ、室内へ向かう。

玄関に入るだけでも、これだけの動作があります。設計の際には、動作がストレスなく、スムーズに流れるようイメージし、さまざまな配置やレイアウトを考えます。

玄関に入った際に何を見せるか。光はどこから入れるか。手洗いをどこに置くか。室内への扉をどの向きに置くか。こういった判断の積み重ねが、空間の質をつくります。

ユニベールハウス岩室では、玄関の正面に縦長の窓を設けています。玄関を開けた瞬間に光が入り、外の気配が感じられます。将来的には窓の外に植栽を植える計画です。帰宅するたびに、季節の変化が目に入る玄関になります。

玄関に機能を持たせる

玄関収納

玄関は、ただ靴を脱ぎ履きするだけの場所ではありません。

上着を脱ぐ、荷物を置く、手を洗う、傘をしまう、子供の外遊び道具を片付ける。帰宅してから室内に入るまでの間に、さまざまな動作が行われています。

これらの動作を一つひとつ拾い上げ、収納や設えを配置していく。それが機能する玄関をつくる考え方です。

靴は土間収納へしまう。上着はハンガーにかける。細かな収納を設けるより、大きな玄関クローゼットをひとつ設ける方が使いやすい場合もあります。何でも入れられる大容量の収納は、室内への持ち込みを減らします。

玄関手洗いも同じです。帰宅したらすぐに手を洗い、うがいをする。その動線が玄関で完結していれば、洗面室まで移動する必要がありません。玄関に手洗いを設けるのは、単なる流行ではなく、帰宅動線として合理的です。

ユニベールハウス岩室では、土間収納とクローゼット、手洗いカウンターを玄関に設けています。帰宅してから室内に向かうまでの行為が、玄関で完結する計画です。

玄関を、もうひとつの部屋として考える

玄関土間

玄関は、通過する場所だと思われがちです。

しかし、玄関土間スペースを広くとると、暮らしの可能性が広がります。自転車のメンテナンスをする。日曜大工の作業場にする。泥のついた野菜を洗って処理する。アウトドア用品を手入れする。

室内ではやりにくいことが、土間ならできます。汚れを気にしなくてよい。多少水が飛んでも問題ない。外と内の中間にある場所だからこそ、使い方の幅が広がります。

ペットを飼っている家庭にとっても、土間は重宝します。散歩から帰ってきた犬の足を洗う。濡れたまま室内に上げなくて済む。ペット用品をまとめて置いておける。土間という場所が、ペットとの暮らしをずいぶん楽にします。

先に触れた玄関手洗いは、帰宅動線としてだけでなく、土間の万能性をさらに高めます。泥よごれをその場で洗い流せる。作業後にすぐに手を洗える。用途が広がるほど、手洗いの価値も大きくなります。

間取りを考えるとき、玄関は残った面積で決まる場所になりがちです。でも、意図的に広さを確保することで、玄関はもうひとつの部屋になります。

玄関から暮らしを考える

玄関扉

玄関は、家の中でも特別な場所です。

外と内が交わる場所であり、毎日必ず通る場所でもあります。帰宅したときの安心感、来客を迎えるときの印象、朝出かけるときの気持ちの切り替え。玄関はそのすべてに関わっています。

広さや収納量だけで考えるのではなく、どう使うか、何を見せるか、どんな体験をつくるか。そこから考えることで、玄関は家の中で印象に残る場所になりえます。

家の中に入らなくとも、玄関を見ただけで、その家族の暮らしを想像できることがあります。想像以上に、玄関は家の印象を決める重要な場所です。