物干スペースをつくれば、洗濯物は乾くのか

設計の打合せをしていると、「室内に洗濯物を干せる場所が欲しい」という要望を聞くことがよくあります。

新潟では、冬になると雨や雪の日が続き、外に洗濯物を干せる日は限られます。でも、室内干しを希望する理由は、それだけではありません。春の花粉だけでなく、秋にも植物の花粉などを避けたいという方がいます。天気が良くても、外には干したくないというわけです。

また、共働きの家庭では、朝に洗濯物を外へ干したまま仕事へ出かけるのが難しい、ということもあります。急に雨が降っても、すぐに取り込むことはできません。

そう考えると、室内干しは雨や雪の日だけのためのものではなく、日常的に必要な場所になってきているように感じます。そのためか、設計の打合せでも、ランドリールームや室内の物干スペースについて相談することが多くなりました。

では、室内に洗濯物を干す場所をつくれば、それで洗濯物はきちんと乾くのでしょうか。実は、物干スペースをつくることと、洗濯物が乾きやすい環境をつくることは、少し違うことなのです。

洗濯物が乾くために必要なこと

洗濯物を室内に干すとき、風を当てると乾きやすい、ということは、感覚的にも分かりやすいと思います。また、湿気がこもらないように換気することも、想像しやすいでしょう。

もうひとつ、意外と大切なのが、物干スペースの室温です。洗濯物が乾くということは、衣類に含まれている水分が蒸発して、空気中へ移っていくということです。

空気は、温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができます。同じ量の水蒸気を含んでいても、室温が高ければ相対湿度は低くなり、反対に室温が下がれば相対湿度は高くなります。つまり、室温が低い場所ほど、洗濯物の水分は蒸発しにくくなります。

だから、室内で洗濯物を乾かすためには、

室温を低くしないこと。
洗濯物のまわりに風を流すこと。
洗濯物から出た湿気を排出すること。

この三つを一緒に考えることが大切です。

洗濯物が乾くための3つの条件

風を当てれば、洗濯物の表面にたまった湿った空気を動かすことができます。しかし、それだけでは水分が洗濯物から室内へ移っただけです。そこで換気扇などを使って、湿った空気を外へ排出する。そして、その間も室温が大きく下がらないようにする。

この三つがうまく働くことで、洗濯物が乾きやすい環境になります。

日当たりのよい物干場なら、よく乾くのか

洗濯物を乾かすなら、日当たりのよい場所がいい。そう考えるのは自然なことだと思います。

物干スペースに大きな窓を設けて、太陽の光を取り込む。日射によって室温が上がれば、洗濯物も乾きやすくなります。晴れた日であれば、とても有効な方法です。

ただ、新潟の冬では少し事情が違います。

前回の記事「新潟の冬は、なぜ寒いのか」でも紹介しましたが、1月の日照時間は、新潟が56.4時間なのに対して東京は192.6時間。新潟では、冬の日射を安定して期待することができません。晴れた日には暖かくなる物干スペースでも、曇りや雨、雪の日には、窓から十分な熱を取り込むことができません。

一方で、窓は断熱された壁に比べて熱が逃げやすい場所です。日射による熱を得られない日に、大きな窓から室内の熱が逃げれば、物干スペースの室温は下がりやすくなります。

前章で書いたように、室温が下がれば相対湿度は上がります。日射を取り込むためにつくった大きな窓が、新潟の冬には、かえって洗濯物を乾きにくくする側に働くこともあります。

さらに、洗濯物を干している室内では、衣類から多くの水分が空気中へ放出されます。そのとき窓の表面温度が低ければ、窓の周辺で空気が冷やされ、結露が生じることもあります。

だから新潟の冬の物干スペースでは、日を入れて暖めることよりも、室温を下げないことが大事になります。室温を下げない方法を考えた方が、天候に左右されにくい乾燥環境をつくることができます。

もちろん、物干スペースに窓が必要ない、ということではありません。自然光が入る明るい場所で洗濯物を干したい。換気のために窓を開けたい。春や秋には日射を利用して早く乾かしたい。そうした目的であれば、窓やサンルームを設けることには意味があります。

大切なのは、日当たりがよければ洗濯物が乾くと考えて窓をつくるのではなく、どの季節に、何のためにその窓が必要なのかを考えることです。

物干スペースは、家のどこにつくれば良いか

では、冬の日射に頼らずに洗濯物を乾かすとしたら、物干スペースは家のどこにつくればよいのでしょうか。

私は、まず家の中のどこが暖かく、どこに空気が流れているかを考えます。例えば、リビングなど普段暖房している場所の近くに物干スペースを設ければ、その暖かい空気を利用することができます。

ただ、リビングからいつも洗濯物が見えているのは、落ち着かないという人もいるでしょう。そのような場合には、物干スペースをリビングの近くに置きながら、壁の位置を少しずらしたり、引き戸を設けたりして、洗濯物が直接見えないようにします。暖かい場所から遠ざけるのではなく、視線だけを調整する。そうすれば、生活空間の居心地を損なわずに、暖かい空気を物干スペースへ取り込むことができます。

LDKに隣接して設けた家事室。引き戸を開ければLDKとつながり、閉じれば洗濯物が見えないようにしています。
LDKに隣接して設けた家事室。引き戸を開ければLDKとつながり、閉じれば洗濯物が見えないようにしています。

一方、独立した物干室など、閉じた場所に洗濯物を干す場合には、別のことを考える必要があります。洗濯物から出た水分が室内にたまらないように、換気扇や換気窓を設ける。そして、洗濯物の周囲を空気が通ってから排気されるよう、風の流れも考えます。洗濯物は隠しても、空気まで閉じ込めない。閉じた物干スペースでは、これが大切です。

また、二階建ての住宅では、必ずしも物干し専用の部屋をつくらないこともあります。吹抜けの上部や階段室など、家の中でも空気が動きやすい場所に物干しを設ける方法です。

暖かい空気や家の中にもともとある空気の流れを利用できれば、物干しのためだけに新しい部屋をつくらなくても、乾きやすい場所をつくることができます。

もちろん、ここでも洗濯物の見え方は考えます。リビングなどから直接見えない位置にずらしたり、壁を利用したりしながら、空気は通るけれど洗濯物は目立たないように調整します。

物干スペースを考えるとき、洗濯機の隣に何帖のランドリールームをつくるか、から始める必要はないと思っています。

家のどこが暖かいのか。どこに空気が流れているのか。そして、どこなら洗濯物が生活の邪魔にならないのか。そうやって家全体を見ながら、物干しに適した場所を探していきます。

物干スペースは、何帖あれば足りるのか

物干スペースを計画するとき、「何帖くらいあれば足りますか」と聞かれることがあります。けれど、必要な広さを家族の人数だけで決めるのは難しいと思っています。

同じ4人家族でも、小さな子供が二人いる家庭と、大人に近い子供がいる家庭では、洗濯物の量は違います。子供が部活動をしていれば、毎日のように洗うウェアやタオルが増えることもあります。

もうひとつ大きく影響するのが、洗濯をする時間と回数です。一日の洗濯物を朝にまとめて洗って、一度にすべて干す家庭もあります。朝と夜など何回かに分けて洗濯するのであれば、一度に干す量は少なくなります。

ですから設計するときには、家族が何人いるのかだけではなく、いつ洗濯するのか。一日に何回くらい洗濯機を回すのか。一度にどのくらいの量を干すのか。そんな普段の暮らし方を知ることが大切です。

そして、物干スペースで重要なのは、床の広さだけではありません。

実際にどれだけの長さの洗濯物を干せるのか。洗濯物同士が重ならず、その間を空気が通るだけの余裕があるのか。

2帖、3帖という床面積だけでは、洗濯物がどのくらい干せて、どのくらい乾きやすいのかまでは分かりません。必要なのは、何帖の部屋をつくるかよりも、一度にどれだけ干す必要があるかを知ることだと思います。

物干しのためだけの部屋をつくるべきか

一度に干す量が分かれば、必要な物干スペースも見えてきます。では、そのために独立した部屋をつくる必要があるのでしょうか。

ランドリールームを独立した部屋として設ければ、洗濯物を干したままにしておくことができます。リビングなどから洗濯物が見えないというメリットもあります。十分な広さを確保できるのであれば、それもひとつの方法です。

ただ、住宅の面積には限りがあります。物干スペースを広くすれば、その分、LDKや収納、個室など、ほかの場所に使える面積とのバランスを考える必要があります。

だから私は、物干スペースを必ず独立した部屋として考える必要はないと思っています。

例えば、洗面室や脱衣室の一部に物干しを設ける。家事室に物干しの機能を加える。二階建てなら、階段室や吹抜け上部など、家の中にもともとある空間を利用することもできます。ひとつの場所にいくつかの役割を持たせることで、限られた面積を有効に使うことができます。

家事室兼物干しスペース

ただし、単に場所を兼用すればよいわけでもありません。

そこで洗濯物がきちんと乾くのか。
洗濯物を干した状態でも、ほかの使い方を邪魔しないか。
毎日の洗濯で無理なく使える場所なのか。

そうしたことまで考えて、初めて兼用する意味が出てきます。

設計の打合せで、ランドリールームが欲しいという要望が出たとき、私は、その部屋をそのまま図面に描くのではなく、まず、なぜ必要なのかを考えます。

花粉などのアレルギーがあるから、一年を通して室内に干したいのか。共働きで、外に干したまま出かけることが難しいのか。冬の雨や雪の日に干す場所が欲しいのか。一日にどのくらい洗濯をして、どのくらいの量を一度に干すのか。

そこが分かれば、必要なのは独立したランドリールームなのか、洗面や家事室と兼用した物干スペースなのか、あるいは家の中の空気が流れる場所を利用すればよいのかが見えてきます。

ランドリールームという部屋をつくることが目的ではありません。その家族の暮らしに合った場所に、洗濯物がきちんと乾く環境をつくること。新潟の気候と、そこで暮らす人の生活の両方を考えながら、物干スペースを決めていくことが大切だと思います。