外壁に杉板張りを選んだ理由

「越後曽根の平屋」の外壁には、自然素材の杉板張りを採用しています。近年は、工業製品であるサイディングボードや金属板で外壁を覆った住宅ばかり目にすることが多いのですが、昔は最も身近に手に入る外壁材として、杉板張りが日常的に使われてきました。しかし、工業化と流通経路の発展に伴い、新建材へとって代わられ、新築住宅で杉板を張ることは少なくなってきました。

消極的に考えれば当時、杉板は材料調達の制約として仕方なく使わざるを得なかったのかも知れませんが、その反面、街並みに統一感を与え、その場所固有の場所性を作り上げていると、ポジティブに捉えることもできます。

風景に馴染んだ佇まいを実現する

こちらが杉板を張った外観です。杉板には自然塗料を塗って、落ち着いたシルバーグレー色に発色させています。ぱっと見は、新築でありながら、まるで以前から建っていたような佇まいとなっています。こちらの住宅が建つ集落には、昔ながらの杉板張りの家が残り、昔ながらの落ち着いた新潟らしい風景が作り出されていました。その風景に対して敬意を払い、周辺の街並みに影響を与えないよう配慮しました。

あえて風景に対して目立つように外観をデザインする場合もありますが、今回の目標は、風景に対して悪目立ちしないよう、自然に馴染むことをデザインしました。その目標を実現するため、最も適した外壁材が杉板張りでした。

周辺の風景に馴染ませる手段として今回は、周囲の建物と外壁材を合わせる方法を選択しましたが、他にも、建物の高さを揃える、ボリュームを揃える、建物の向きを揃えるなど、どの要素を同調させるかや、どこに重きを置くかによって、馴染ませ方は多様です。馴染ませるだけでなく、あえて異化する方法やリズムを作る、流れを作る方法がどがありますが、どれを選ぶかは、設計者の感性次第です。

住まいに愛着ある表情を与える

新建材を使うことが全て悪いという訳ではありません。新建材は、耐候性や耐久性、コスト面で優れているという利点があります。ただ、使い方によっては建物が無機質に見えてしまうことがあります。都市部に建つ住まいなら、金属板などのクールな表情が似合うかもしれませんが、今回のように緑の多い郊外に建つ住宅ならば、温かみのある表情の方が周辺の街並みに合うのではないかと考えました。上の写真のように、緑に樹々とシルバーグレイの杉板はとても色合いが良く、落ち着いた雰囲気が作り出されます。

今回の周辺環境を考慮すると、自然素材である杉板を外壁に張る方法は最適でした。自然素材の柔らかな表情からは、温かみを感じますし、時間と共に色や質感が次第に経年変化し、建物も住まい手と共に年をとり愛着が増していきます。しかも今回、杉板の塗装は、お住まいになる方が自らDIYで塗装工事を行いました。自分で塗った杉板が自分が住む家に張られたら、愛着が湧くこと間違いありません。

杉板外壁のDIY塗装に関する記事は、こちらをお読みください。

長持ちする

自然素材を外壁に張った場合、耐候性や耐久性の面で問題があると考えて不安に感じる方もいるかもしれませんが、実は、他の外壁材に比べて性能が劣ることはありません。紫外線で退色したり、節抜けが起こったりすることはありますが、それ自体、自然な変化であって材自体が傷んだ訳ではありません。実際には、杉板で外壁防水をしている訳ではなく、杉板の裏側には通気層が設けてあり、更にその下には防水シートが貼ってあり、その防水シートが防水ラインとなっています。ですので仮に、杉板の節が抜けて外壁に穴が空いたとしても、雨が室内へ入ってくることはありません。

また近年の新建材は、製品の更新速度が速く、数年後に一部外壁を張り替えたいとなった時には、既に廃盤となっていることが多く、一部張替えが不可能というケースがあります。杉板は何十年も前から使われてきた材料で、容易に手に入りますので、一枚だけ張り替えることも簡単です。

杉板貼りは、飽きがこないという点で、賞味期限の長い外壁材であると考えられます。流行りの色や柄の外壁材を貼った場合、時間が経過した後に、少し古びて見えてしまうことがあります。その点で杉板貼り外壁は、新築の時点で既に以前から建っていたかのような佇まいを持つくらいですので、長持ちするデザインであると言えます。自然素材であるため、時間と共に経年変化をしていきますが、その表情の変化を独特の味わいとして愉しむことができます。

杉板外壁の経年変化に関する記事は、こちらをお読みください。

杉板張りの表現の多様性

杉板外壁の貼り方には、大きく分けて、横張りと縦張りの2つの方法あります。板を横張りにして重ねて貼っていく構法を「下見(したみ)板貼り」、板を縦に貼る構法を「縦羽目(たてはめ)板貼り」と呼びます。板貼りに加えて、細目の留め付け材(押縁/おしふち)で縦に留め付ける構法もあります。押縁で留めつける方法は昔からある伝統的な構法です。下の写真は、「縦羽目板張り+押縁つき」です。

横張り/縦張り、押縁あり/押縁無し、板巾広め/板巾狭め、など張り方のヴァリエーショを組み合わせることで、同じ杉板を使ったとしても、まったく印象の異なる表情を作りだすことができます。組み合わせ方次第で、昔ながらの懐かしい表情を作ることもできますし、現代的なシャープな表情を作りだすこともできます。このように材料選びと施工方法を変えるだけで、デザインの多様性があることが、杉板貼りの魅力です。