エリアを区切って断熱リフォームする「ゾーン断熱」とは

今回の内装リフォーム工事では、設計時のヒアリングで冬場に足元が冷えると聞き取っていましたので、リフォーム工事に合わせて断熱改修工事も行うことにしました。

また改修工事中は、その建物に住みながら改修工事を行う方針でしたので、エリアを区切って工事を行うゾーン断熱工事としました。以下、どんな方法で断熱改修を行ったのかを記事にしています。

ゾーン断熱とは


建物の断熱性能を上げる場合、建物全体に断熱材を施工するのがベストですが、建物の規模が大きいと断熱リフォームにかかる費用がかさんでしまいます。コストを抑えるための方法として、ゾーン(エリア)を区切って、範囲を限定して行う「ゾーン断熱」と呼ばれる改修方法があります。

家の中には、一日の生活の中で滞在する時間の短い部屋と長い部屋があるはずです。また子供が巣立って今は使っていない部屋があったり、滞在時間の短い納戸や廊下があります。家の中の部屋で、もっとも長く時間を過ごす部屋や、または、浴室や脱衣室だけに限定して、必要な範囲だけを包むよう断熱改修工事を行う方法が「ゾーン断熱」です。例えば、一部屋だけを断熱することもできますし、1階だけに限って断熱をするなど、多様なパターンに対応できます。

今回はメインの居住スペースとなっている1階LDKに絞って断熱改修を行うことで、改修費用を抑えることを目指しました。工事エリアが建物の一部分だけですので、住みながら工事を進めることができ、引っ越しの手間や費用も同時に削減することが出来ますので、今回の工事では、範囲を区切って工事を行うゾーン断熱リフォームが理にかなっていました。

ゾーン断熱とは別に、「部分断熱」という改修方法もあります。サッシだけ、壁だけというように、一つの部位だけを断熱改修する方法です。

「全体断熱」、「ゾーン断熱」、「部分断熱」など断熱改修にも色々なパターンがあります。どの改修方法が良いのかは、今後、その家に何年くらい住むのかを考慮しながら決める必要があります。どんなに予算を掛けて改修したとしても、数年で住まなくなってしまうのでは、掛けた費用が無駄になってしまいますので。

壁・天井を解体せずに内側に断熱する

断熱改修を行う場合、室内側から内壁や天井を解体し、断熱を入れ込み、その後に新たに壁・天井仕上げ材を貼る方法が一般的ですが、今回の工事では、現状の内壁、天井ともに解体を行わず、その内側に壁と天井を2重で作る方法を選択しました。上の写真の左手には、新たな内壁を建て込んでいるのが見えています。上部には、既存の杉板張りの天井が見えていますが、その天井の下に新しく天井を作り、断熱材を入れ込んでいきます。

この工法を採用する利点は、解体費と解体材の処分費を抑えることができる点、合わせて工期短縮ができる点です。リフォーム工事において、解体にかかる費用は改修工事費の中の1から2割と、多くの比率を占めるため、コストダウンを計る上では重要な要素です。

逆に欠点は、壁と天井を内側に新設するため、部屋の内法(うちのり)が減ることと、天井高さが下がることです。ですので、部屋のスペースに余裕があり、天井高さが十分ある場合のみ、この内側に断熱する方法が使えます。

改修を行った断熱の仕様

コストをかければかける程、断熱性を上げることができますが、掛けられる費用には限界があるはずです。あと何年その家に住むのかを考慮し、予算バランスを踏まえながら、断熱仕様を決めることが大切です。

今回の工事では、断熱シュミレーションを行った結果を反映して、各部分の断熱改修の仕様を下記のように決定しました。シュミレーション結果から、外壁からの熱損失の比率が大いことが分かったので、他の部分に比べ、外壁の断熱材を厚めに入れることにしました。

天井:16kg高性能グラスウール厚50mm(2階建ての1階天井)
外壁:24kg高性能グラスウール厚105mm
床下:32kg高性能グラスウール厚80mm
サッシ:内窓追加(樹脂サッシ+Low-Eガラス・アルゴンガス入り)

築年数の古い家は、気密性能が低いことが予想されるので、断熱性能だけでなく、気密フィルムを施工するなど、同時に気密性能を上げる必要があります。気密が適切に行われないと、断熱材は所定の断熱性能を発揮できませんので。

断熱性能はどれくらい変わるか



断熱改修を行ったことで、断熱性能がどれだけ変わったでしょうか。暖冷房燃費計算プログラムQPEX(キューペックス)で外皮性能Ua値(外皮平均熱貫流率)と年間暖冷房エネルギー消費量をシュミレーションしてみました。上が改修前、下が改修後です。

外皮性能Ua値は、(改修前)2.27W/㎡・K→(改修後)0.65W/㎡・Kとなりました。

改修前は、床と天井に断熱材が入っておらず、外壁内に入っている断熱材は劣化がひどかったため、ほぼ無断熱状態でしたので、2.27という数値、つまり、断熱等級1と非常に低い数値となっています。改修後は、この建物が建つ横浜市(地域区分6)で断熱等級4に当たります。

年間暖冷房エネルギー消費量は、(改修前)15,929kWh→(改修後)4,430kWhと72%減少しています。エアコン効率3、電気単価30円/kWhで1年間の冷暖房費電気料金を計算すると、(改修前)157,158円/年→(改修後)42,590円/年となります。

改修前の状態で毎日エアコンを使って快適な環境を維持しようとすると、年間15万円も掛かかってしまいます。これでは多少寒かった(暑かった)としても、エアコンを使うのを我慢してしまうかもしれません。

断熱性能が低い建物では、空調を使うことで室内の空気自体は快適温になっているかもしれませんが、壁や床の表面温度は外気温にひっぱられて暑かったり・寒かったりしますので、放射熱によって室温よりも寒かったり・暑かったりを感じることになります。エアコンを切った瞬間に寒さを感じるような場合は、断熱材が不足している可能性が高いです。

ここまで書いてきたように、断熱改修と一言でいっても、種類や工法・予算などによって、様々なパターンがあります。どのような改修方法が最適か、温熱シュミレーションし検討することをおススメします。