「岩室の平屋」現場では現在、屋根工事が行われています。今回の屋根は、ガルバリウム鋼板葺きとしているのですが、ガルバリウム屋根葺きと一言で言っても実は、さまざまな葺き方があります。瓦棒葺き、縦ハゼ葺き、横葺き、と、その他多数。近年は、現場での施工手間を減らすため、パチパチと留め付けるだけで簡単に施工が完了するタイプの屋根葺き工法もあって、施工時間の短縮化、施工手間の軽減が大幅に図られています。(同時に防水性能の向上も年々、図られているようです。)
ガルバリウム鋼板自体も年々、性能が上がり、さび保証20年以上の高耐候製品や遮熱性能を持つ製品も現れてきています。工事コストと屋根防水性能を考えると、他に選択肢がないくらい、ガルバリウム屋根が国内の屋根業界を席巻しているのが現在の状況です。
今回、屋根葺きに採用したのは、昔ながらの手で締め付け加工を行う「縦ハゼ葺き工法」。なぜわざわざ、と思われるかもしれませんが、敢えてこの方向を選択したのは、見た目がすっきりと美しく納まるから。
・軒先に雨どいを取り付けないので軒先が良く見える
・平屋で建物の高さが低く、軒先が近くに見える
・平屋の特徴である水平ラインを強調したい
これらの要素を考慮し、縦ハゼ葺きのハゼ部分を軒先端部でつぶしたシャープなデザインにしたい、と考えました。そんな細かい所まで、と思われるかもしれませんが、そのような小さな部分を積み重ねることで、最終的な建物の見え方が大きく変わってきます。上の写真は、屋根の端部納まり部分。屋根端部でハゼの立上り部分を折り曲げ処理し、水平ラインがくっきりと、すっきりとします。
上の写真は、縦ハゼを締め込んでいくための道具「ハンドロールシーマー」。
職人さんの話では、近年、簡易型のキャップ式施工方法が主流で、手加工をしたのは、数年ぶりとの事。施工方法が簡易化・効率化していく流れの中、このような手間の掛かる工法は、いつか姿を消していくのかもしれません。
隣り合った屋根材の立上り部分を専用の道具で掴んで折り曲げていきます。折り曲げることで屋根材同士が一体化し、継ぎ目のない一枚の屋根となります。端部は大きなペンチのような道具(通称「がちゃ」と呼ぶそうです。)を使ってがちゃ、がちゃと締めこんでいきます。長い召し合わせ部分は、ハンドロールシーマ―で、立上りに沿ってローラーでぐいぐいと押し込んで締めていきます。
設計者としては年々、工法の選択肢が減っていくのは非常に悩ましいことではあるのですが。デザイン上、選べるものが無くなっていくことですので。もしかすると数年後には、手で加工するこのような工法を現場で目にすることが無くなっているかもしれません。