「岩室の平屋」は、設計者である私の自邸です。いつもは設計者として現場に関わるのですが、今回は立場を変え、住まい手の立場で記事を書いてみました。DIYをやりたいと考えている方の手助けに少しでもなれば幸いです。
建物の外壁に張る杉板の塗装、通常は塗装職人さんが行うのですが、今回は自分でDIY塗装をしてみました。いつもは設計者として、お客さんのDIY塗装のアドバイスや助っ人をしているのですが、自分が主役となってDIYを行うのは、今回がはじめて。
せっかくの機会ですので、DIYの塗装の手順や掛かった費用を紹介したいと思います。
杉板DIY塗装に選んだ自然塗料「ウッドロングエコ」
今回使用した塗料は、天然防腐塗料「ウッドロングエコ」。木の表面に被膜を作らず、成分が木へ浸透し、防腐効果を発揮する塗料です。
外壁に木材を採用する場合は、耐候性やメンテナンス性が重視されるため、一度塗ったらメンテナンスがいらなくなるのは大きな利点。人体に害のない自然素材を原料にしているので、外壁を木で仕上げるエコなスタンスと、とてもマッチします。
ウッドロングエコは、緑色の粉末と水道水を混ぜるだけで作れるので、初心者でも簡単に扱えます。塗装に使ったハケやバケツなどの道具は水道水で洗い流せる点でも、取り扱いが簡単です。
今回は、桶を作って塗料に杉板を漬けながら塗る「どぶ漬け」の方法をとりました。以前、ハケ塗りをしたことがあるのですが、塗装の終わった板を後日みると塗り残し部分が結構あり、最終的には3度塗りまで再塗装をおこなった経験がありました。(木の表面に撥水する部分があると、塗料がうまく材に浸透しなくなるようです。)ハケで3度塗りをする手間を考えると、どぶ漬けを行う方が効率が良いと判断しました。またハケ塗りは、塗っている最中に塗料がぽたぽたと床に垂れてしまい、塗料がだいぶ無駄になっているのではないかと考えたためです。
「ウッドロングエコ」をどぶ漬けする
はじめに塗装の前に塗料を漬け込む桶づくりからスタートします。用意した材料は、以下。
・ブルーシート(長さ5.4以上)×1枚(水漏れ防止のため、厚手タイプがおすすめ)
・桟木(さんぎ:3cm×3cm程度の細長い角棒状の木材)長さ4m×6本程度
・貫板(ぬきいた:幅9cm×厚1.5cm程度の板材)長さ4m×4本程度
・えんぴつ
・のこぎり
・65mmビス(材料固定用)
・充電ドライバー(ビス止め工具)
まずは、桟木と貫板をのこぎりで必要な長さに切り、ビスで固定して桶の外形フレームを作ります。
参考までに、今回のフレームのサイズは、深さ30cm×幅20cm×長さ4.5m程度としました。桟木などは通常、長さ4mで販売されているので2本繋いで4.5mの長さにしています。(塗装する外壁材の寸法によって調整してください。)底に板を貼れば更に完璧ですが、今回は手間を省いて、底板を留めつけず、底に板を敷くだけにしています。
完成したフレームの上に、ブルーシートを被せ、塗料を溜める桶とします。塗料の液漏れ防止のため、ブルーシートは2つに折って2重にしておくのがベターです。
また塗装作業は、地面の上に桶を置いておこなってもよいのですが、作業時に腰に負担がかかるので、やはり台の上に置いて作業した方がおススメです。(今回は大工さんの作業用の台を借りました)
ここまで整えば、後は塗料を作り、桶の中へ入れて塗っていくだけです。
塗装のために用意した道具は、以下。
・塗装用手ぬぐいタオル、または、雑巾などの布
・バケツ(10L程度、水の量を測れるとベスト)
・ゴム手袋
どぶ漬け桶に塗料(ウッドロングエコを水道水で溶かした塗料)を入れます。塗料を満たした桶の中に、塗装する板材を漬け、表面を布で擦ります。
木の節や脂分の多い部分は水分を弾きますので、布で擦ってやって、塗料を材料へ浸透させていきます。板をゴシゴシとぞうきんで水洗いするイメージです。
板の側面や端部は、塗り残しがちな部分ですので、特に入念に。表に続いて、裏面も同様に。(表だけ塗装とする場合は、片面だけでOKです)塗り終わったら、よく水を切って、立てかけて乾燥させます。後は、根気よく繰り返すだけ、です。
DIY塗装にかかった作業時間
今回、塗装した板の枚数は200枚でした。板を運ぶ人、塗装する人と、作業を分担して2人ががり作業して、1時間に大体20枚程度のペースで塗れました。朝9時からスタートして昼休憩をはさんで15時まで作業すると、一日に塗れる枚数は100枚。
計算通り、2人で作業して、2日間で板200枚のDIY塗装が完了しました。平屋ですので外壁面積が少なく、この程度の板の枚数で済んでいますが、2階建ての家であれば、倍の板枚数、倍の塗装時間がかかると思ってください。
なお今回は2人で作業をしましたが、もっと人手があって、板を運ぶ人、塗装する人、立てかけて乾燥させる人、と作業分担をすればもっと効率よく作業が進むはずです。テンポの良い音楽でもかけながら、リズムよく作業を進めてください。
「ウッドロングエコ」の塗装後の杉板の表情
写真は、手前から、塗装前、塗装直後、塗装して数時間後の杉板の表情。肌色だった杉材が、落ち着いたグレー色に変化しているのが分かります。
塗装直後よりも時間が経つほど、塗料が木へ浸透・反応し、更に落ち着いた色目になってくるはずです。いかにも着色した木の色でなく、シルバーグレイの木の自然な風合いを求めるのであれば、この塗料はおススメです。
杉板DIY塗装にかかった費用
参考までに、どぶ漬け両面塗りにした場合の塗装費用を計算してみます。
ウッドロングエコ100gの塗料を使って、長さ4m×幅15cm×厚15mmの板が約80枚分、両面を塗れました。両面の塗装面積を計算すると約106㎡。塗料の購入費が約2万円ですので、塗料費20,000円÷106㎡=188.6円/㎡となります。カタログには100gの塗料、刷毛2回塗りで約70~90㎡塗装可能と表示があるので、両面106㎡塗れたとすると、カタログ値よりも約15%増しの面積が塗装できたことになり、かなり効率よく塗れたことになります。
今回塗装した杉材は、表面仕上げが荒木だったため、削った後の木くずや木粉が表面についていました。その粉を塗装をする前に乾いたぞうきんで拭き取って落としたのが功を奏したのかもしれません。また当日は気温が低めで、天気は雨模様だったため、塗料の蒸発量が少ないかったことも影響しているのかもしれません。
塗装屋さんにお願いした場合の塗装費用と比較してみます。見積もり時の塗装工事は、片面塗り112㎡×1,800円/㎡=201,600円(税抜き)→消費税込み221,760円(塗装手間+塗料代)でした。この金額は片面塗りですので、今回のように両面塗りの場合、倍の443,520円掛かることになります。
今回、実際に掛かった費用は、塗料代だけですと20,000円×3袋=60,000円。その他の材料費を含めても、7万円弱となります。つまり、DIY工事を行うことで、373,520円のコストダウンになった計算になります。この計算には自分の人件費(自分の働いた時間)を計上していないので、そのままの金額が全部浮いた!とはなりませんが、かなり大きな金額を抑えることができたことになります。
建設現場は、プロの職人さんが関わっているので、素人では建設工事に参加しにくい印象があります。しかし、この外壁杉板DIY塗装は、他の工事工程とは切り離されていますし、やる気さえあれば比較的に簡単にできる作業です。自分で手をかけた家は、きっと満足感が違うはず。家づくりに参加したいと思う方は、ぜひ試してみると良いと思います。