家づくりを考え始めると、やりたいことが次々と出てきます。
明るくて気持ちのよいリビングにしたい。窓から景色を眺めたい。床には無垢材を使いたい。キッチンにもこだわりたい。もちろん、断熱や耐震もしっかりさせたい。
せっかく家をつくるのだから、できることなら、どれも諦めたくありません。
設計事務所へ相談に来られる方は、家が建てばそれでいい、という方ではないように思います。いろいろな住宅を見たり調べたりする中で、自分たちらしい家にしたい、心地よく暮らせる場所をつくりたいと考えて、相談に来られます。
その分、実現したいことは多くなります。
一方で、家づくりに使える予算には限りがあります。やりたいことを一つずつ積み上げていけば、ほとんどの場合、予算には収まりません。
では、限られた予算の中で、どうすれば自分たちが本当に望んでいる家をつくることができるのでしょうか。
すべてを同じ水準にしない
限られた予算の中で、すべての場所を同じようにつくる必要はないと考えています。
以前設計した住宅では、寝室の床を合板のままとし、その分、リビング・ダイニングの床には無垢材を使いました。
寝室にはベッドや家具が置かれるため、暮らし始めると床の多くは見えなくなります。一方、家族が長い時間を過ごすリビング・ダイニングの床は、毎日目に入り、素足で触れる場所でもあります。
同じ床でも、暮らしの中での役割は違います。
収納や納戸も同じです。壁や天井をきれいに仕上げず、合板や下地クロスのままとすることがあります。見えにくい場所にまで一律に予算をかけるより、その分を日々の暮らしに大きく影響する場所へ使いたいからです。
別の住宅では、天井の高さを低く抑えることで、外壁や内壁の面積を減らしました。天井には比較的安価なラワン合板を使っています。天井を低くしたのは、コストを抑えるためだけではありません。視線を水平方向へ導き、庭とのつながりを強くすることも意図していました。

そうして抑えた予算を、庭へ大きく開くガラス面に使いました。抑えることと、空間を豊かにすることは、必ずしも反対ではありません。
すべてを少しずつ安くするのではなく、抑えるところと、きちんと予算をかけるところをつくる。家全体に強弱をつけることが、限られた予算を生かすことにつながります。
長く暮らしに効くものには、予算を残す
一方で、予算が厳しくても、できるだけ削りたくないところがあります。
たとえば、敷地から気持ちのよい景色が見えるなら、その方向へ開く窓には、きちんと予算をかけます。

ある住宅では、中庭に面した正面の窓を大きく取り、そのほかの窓は必要最小限に抑えました。すべての窓を大きくするのではなく、見せたい景色に向かう窓を大切にする。そうすることでコストを抑えながら、自然と中庭へ視線が向かうようにしています。
窓は一度つくれば、その家で暮らす間、毎日のように風景を見せてくれます。季節や時間によって光が変わり、外の景色も変わっていく。その場所でしか得られないものだからこそ、大切にしたいと考えています。
先ほどの無垢床も同じです。家族が長い時間を過ごし、毎日目にしたり触れたりする場所なら、そこに予算を使う意味があります。
そして、完成すると見えなくなってしまうものにも、できるだけ予算を残します。
断熱材や構造材です。
どちらも完成すると、その多くは見えなくなってしまいます。それでも、冬の暖かさや夏の過ごしやすさ、長く暮らしていく上での安心感に関わります。
一方で、キッチンや給湯器、空調機などの設備機器には、必要以上に予算をかけないようにしています。
最近の設備機器には、さまざまな機能がついています。便利なものもありますが、実際には使わない機能も少なくありません。住まい手が必要としていれば取り入れますが、基本的には、必要な機能を備えたシンプルなものを選ぶようにしています。
設備機器は、いつか故障し、修理や交換が必要になります。そこに予算をかけすぎるよりも、長く暮らしに影響するものに予算を残したいと考えています。
予算をかけるかどうかを考えるとき、目立つかどうかだけで判断するのではなく、暮らしにどれだけ影響するのか。そして、その効果がどれだけ長く続くのか。そう考えると、お金を使いたい場所が少しずつ見えてきます。
アイディアには、高いも安いもない
高価な材料を使えば、良い空間になるとは限りません。
もちろん、質のよい材料には、それ自体が持っている魅力があります。料理でいえば、新鮮でおいしい食材なら、あまり手を加えなくても、そのままで十分おいしいのと似ています。
でも、建築に使うものすべてを、高価な材料にする必要はありません。
安価な材料でも、使う場所や組み合わせ方、納め方を考えることで、魅力的な空間をつくることができます。

上の写真は、本来は下地などに使われる木毛セメント板をそのまま仕上げとして使った洗面スペースです。材料の使い方を変えることで、コストを抑えながら空間の特徴にしています。
私の設計では、本来は仕上げに使わない合板などの下地材を、壁や家具、カウンターに使うことがあります。コストを抑えるための選択ですが、使い方を工夫することで、それが空間の特徴になることもあります。
材料には値段があります。でも、そこに加えるアイディアは、材料の値段とは関係ありません。
限られた予算だからこそ、何を使うかだけではなく、どう使うかを考える。そこに設計の役割があると思っています。
優先順位どおりにつくるわけではない
設計を始めるとき、まず住まい手に、家づくりで実現したいことを挙げてもらいます。そして、その要望に優先順位をつけてもらいます。
何を大切にしているのかを知るためです。
ただし、優先順位の高いものから順番に実現していくわけではありません。優先順位が低い要望でも、間取りを少し工夫するだけで実現できることがあります。反対に、優先順位が高くても、実現するために大きな費用がかかることもあります。
そこで、要望の優先順位と、実現するための難しさの両方を見ながら考えていきます。そのままでは難しくても、少し方法を変えれば実現できないか。別の材料ならできないか。ほかの要望と一緒に解決できないか。
予算に合わせて要望を上から順番に削っていくのではなく、できるだけ大切なものを残す方法を探していきます。
予算という制約が、その人らしい家をつくる
予算に限りがあると、すべての要望をそのまま実現することはできません。だからこそ、一つひとつの要望について考えることになります。
これは本当に必要なのか。
どちらを大切にしたいのか。
別の方法でも実現できないか。
そうやって考えていくと、その人が暮らしの中で本当に大切にしているものが、少しずつ見えてきます。
あるところは思い切って簡素にする。その一方で、大切なところにはきちんと予算をかける。
そうしてできた家には、自然と強弱が生まれます。すべてが同じようにつくられた家ではなく、その人が大切にしているものが、はっきりと現れた家になる。
予算という制約は、できることを減らすだけのものではありません。
限られているからこそ、本当に必要なものを考える。その積み重ねが、その人らしい家をつくっていくのだと思います。
予算の配分を考えることは、その人がどんな暮らしをしたいのかを考えることでもあります。