
薄い円盤のような屋根を、一本の柱で支える。
16年ぶりに訪れたテキサコ・サービス・ステーションは、以前と変わらず、軽やかに見えました。
初めて訪れたのは2010年。当時、私が強く惹かれたのは、この円盤屋根の造形でした。あまりに薄く、軽やかなその形を見て、「アントチェアの座面を、そのまま大きくしたようだ」と記事に書いています。
今回、再びこの建物を訪れました。以前との大きな違いは、内部を見ることができたことです。
外から眺めているだけでは分からなかった内部を実際に体験してみると、この小さな建物に対する印象が少し変わりました。
そして内部を見たあと、もう一度あの円盤屋根を眺めると、16年前とは少し違って見えてきました。
必要なものが、そのまま見えている

今回初めて内部に入って、まず感じたのは、その簡素さでした。
自動車の整備を行うスペースの床には、摩耗や汚れに強い塗り床が使われています。水や汚れがかかりやすい壁の下部にはタイルが張られ、天井には作業に必要な明るさを取り入れるための天窓があります。そして正面には、車を出し入れするための大きなシャッター。
どれも、この場所で自動車を整備するために必要なものです。
それらは仕上げで覆われたり、見えないように隠されたりしているわけではありません。必要なものが、そのまま見えています。
けれど、不思議と雑然とした感じがしません。
むしろ、それぞれのものがあるべき場所に収まり、きれいに整理されているように感じました。
色や素材、配置、それぞれの見せ方。ひとつひとつは機能から選ばれたものでも、それらの関係が丁寧に整えられることで、空間全体に美しさが生まれているように思えます。
機能的なものを隠して美しくするのではなく、機能的なものをきちんと整えることで美しくする。
この建物の内部を見て、そんなことを感じました。
なぜ、円盤なのか

内部の簡素で機能的なつくりを見ているうちに、外にある円盤屋根についても、ひとつ疑問が湧いてきました。
16年前に訪れたときは、その薄さや軽やかさに惹かれ、美しい造形として見ていました。
けれど、簡素で機能的につくられた内部を見たあとでは、この円盤も少し違って見えてきました。
もしかすると、この形にも機能的な理由があるのではないか。
給油する車を雨から守るには、ある程度の広さを持った屋根が必要です。一方で、屋根を支える柱が何本もあれば、車の出入りを邪魔してしまいます。
できるだけ少ない柱で、車の動線を妨げず、広い範囲を覆う。
そう考えると、中央付近に一本の柱を立て、その周囲に屋根を広げるという構成には合理性があります。
さらに、一本の柱で屋根を支えるなら、四角い屋根よりも円盤の方が素直です。中央から外周までの距離が均等になり、中心から放射状に屋根を支えることができます。
その結果、構造的には大きな屋根でありながら、見た目には驚くほど軽やかな円盤が浮かび上がります。
円盤は中央の柱から外周へ向かって薄くなり、先端は驚くほど薄く見えます。
もしかすると、あの円盤は、最初に美しい形を思い描いてつくられたものではなく、機能や構造を整理していく中から生まれてきた形なのかもしれないと思いました。
合理的なら、美しくなるのか

ただ、ここでひとつ疑問が残ります。
機能や構造を合理的に整理していけば、それだけで美しい建築になるのでしょうか。
おそらく、そうではありません。
同じ条件を与えられたとしても、すべての設計者がこの円盤屋根にたどり着くわけではないはずです。
給油する車を雨から守ること。車の動線を妨げないこと。できるだけ少ない柱で、広い範囲を覆うこと。
こうした条件から、ある程度まで形を絞り込むことはできます。それでも、円盤の大きさや厚さ、柱の太さ、背後にある四角い建物との距離など、決めなければならないことはいくつも残ります。
機能や構造が、ひとつの美しい形を自動的につくってくれるわけではありません。
必要なものを抽出し、それらを適切な場所に配置する。そして、大きさや位置、プロポーション、それぞれの関係をひとつずつ整えていく。
そうした判断の積み重ねによって、はじめて全体のバランスが生まれてきます。
合理性があって、そこに後からデザインを加えるのではない。
機能や構造を考えることと、それらの関係を美しく整えること。その両方が、同時に進んでいく。
それが、設計するということなのかもしれません。
形が似ているだけではなかった

16年前、この円盤屋根を初めて見たとき、私はアントチェアの座面を思い浮かべました。当時は、単純に形が似ていると感じただけだったように思います。
けれど今回、改めてこの建物を見ながら考えていると、似ているのは形だけではないのかもしれないと思えてきました。
椅子には、建築のような内部空間がありません。
人の身体を支えるために必要な強度があり、そのための材料があり、構造があります。そして、その構造がそのまま目に見える形として現れます。
いわば、構造と造形の距離がとても近い。
アントチェアも、成形合板による座面と背もたれが一体となり、その薄い板そのものが身体を支えています。構造を別のもので覆い隠して、美しい形をつくっているわけではありません。
必要な構造そのものが、造形になっています。
そう考えると、テキサコ・サービス・ステーションの円盤屋根にも、どこか共通するものを感じます。
一本の柱で屋根を支え、そこから円盤が大きく張り出す。構造を隠すのではなく、その仕組みそのものが建物の姿になっています。
16年前に感じた「アントチェアに似ている」という印象は、単なる形の類似だけではなかったのかもしれません。
機能や構造を隠すのではなく、それらを整理し、造形として見せる。
そこには、建築と家具に共通するヤコブセンの設計の考え方が表れているように感じました。
整理することから、美しさが生まれる

16年前、私はこの建物を見て、ただ素直に美しいと感じました。
今回、内部まで見ることができて、その印象は変わりませんでした。ただ、なぜ美しいと感じるのかを、以前より少しだけ考えられるようになった気がします。
必要なものを抽出する。それらを適切な場所に配置する。そして、大きさや位置、プロポーション、それぞれの関係を整えていく。
振り返ってみると、私自身も設計をするとき、同じようなことを繰り返しています。
設計というと、何か新しい形を生み出す仕事のように思われるかもしれません。
けれど実際には、最初から形を考えているわけではありません。
そこに必要なものは何か。何を残し、何を減らすのか。それぞれをどこに置き、どのような関係にするのか。そうしたことを一つずつ考えながら、全体を整えていきます。
美しさは、最後に何かを付け加えることで生まれるものではないのかもしれません。
必要なものをきちんと選び、それぞれの関係を丁寧に整えていく。
16年ぶりにこの小さなガソリンスタンドを訪れて、そんな当たり前のようで大切なことを、改めて考えさせられました。