色を減らして、空間を豊かにする

家づくりを考えるとき、壁の色や床材の色を選ぶことはあっても、空間全体の色数を絞る、という発想はあまり出てこないかもしれません。

色の種類を絞ること。それは、空間から余分な情報を取り除く作業です。結果として、素材の質感が際立ち、光の変化が空間の表情をつくるようになる。色を減らすことで、空間はかえって豊かになる。この記事では、その理由を説明します。

色数が多いと、モノが目に入る

色の多い空間

部屋に入ったとき、なんとなく落ち着かない。そういう空間には、色が多すぎることが原因のひとつとしてあります。

白い壁、木の床、黒いサッシ枠、家具、建具。それぞれが異なる色を持つ空間では、視線は次々と個々の要素に引きつけられます。壁は壁として、床は床として、それぞれが独立して目に入る。空間全体ではなく、モノの集まりとして認識される状態です。

色数が多いほど、空間の情報量は増えます。情報量が増えるほど、人の脳は無意識に処理し続けることになる。それが落ち着かないという感覚の正体です。

色を減らすと、空間が見えてくる

色を統一した空間

色の種類を絞ると、壁・天井・建具・家具・造作が連続した背景としてつながり始めます。個々の要素の輪郭が弱まり、空間全体が一つのまとまりとして見えてきます。

そうすると、人の視線が向かう先は、モノではなく、光の入り方、陰影、奥行き、プロポーション、空間のシークエンスへと変わります。

色で見せる空間から空間そのものを感じる空間へ。色を減らすことで、空間はむしろ豊かになります。

この空間には、何色あるか

写真の空間を見てください。一見、さまざまな色があるように感じるかもしれません。けれど、カラーパレットに抽出してみると、使われている色はすべて茶系とグレー系の中間にある色域に収まっています。

Warm Umber#856C58
Dark Timber#664D3A
Cedar Brown#C19B75
Warm Gray#978C83
Pale Stone#BDB9B3
Plaster White#F0F0F1

色を絞るとは、単調にすることではありません。素材の質感や陰影が際立つ余地をつくることです。

自然塗料の塗り壁、木の建具枠、無垢材の床、天井の合板。素材はそれぞれ異なりますが、トーンが揃っている。だから視線は個々の素材に引っ張られず、空間全体の奥行きやプロポーション、光の入り方へと向かいます。

静けさと落ち着き、そして光

陰影のある空間

色の種類を絞った空間には、静けさが生まれます。鮮やかさを絞った色は視覚的な刺激が少なく、その空間の中で人は自然とゆったりとした時間の流れや落ち着きを感じるようになります。白を基調とした空間とは異なる、どこかゆったりとした空気感です。

空気感だけでなく、もうひとつ大きな変化があります。色数が少ない空間では、仕上げ材の色そのものより、光の変化が空間の表情を決めるようになります。朝は青みを帯びた静かな表情、昼はニュートラルでフラット、夕方は暖色の陰影が強く出る。同じ空間が、時間とともに表情を変えていくようになります。

仕上げが空間をつくるのではなく、光が空間をつくる状態になる。それが、色を絞った空間の豊かさのひとつです。

色でごまかせない空間になる

設計の精度を上げる

もうひとつ、伝えておきたいことがあります。色を絞った空間では、設計の精度がそのまま表れます。色数が多い空間では、色の賑やかさが細部の粗さを隠してくれることがある。けれど色を絞ると、納まり、見切り、建具のライン、スイッチの位置、スケール感、照明計画——そういった設計の判断すべて見えてくる。

また、色差が少ないため、のっぺりとした単調な印象になりやすいという点にも注意が必要です。対策は色ではなく、素材感と艶(ツヤ)の差で奥行きをつくること。左官、塗装、木、布、金属、石、タイル——質感の違いが空間に奥行きを与えます。

色でごまかせない空間になる。それはリスクではなく、設計者としての姿勢を問われるということです。色数を減らすことは、空間の質を色に頼らず、設計の密度で担保するということ、でもあります。