包容力ある空間を実現する

多少テイストの異なるモノがその空間の中に置かれたとしても、空間の質(雰囲気)がブレない、そんな包容力ある空間を作りたいと考えています。旅先で購入した民芸品や子供の描いた絵など、何を置いたとしても、その空間にしっくりと馴染んでしまう、そんな包容力のある空間です。

包容力ある空間を実現する

住まいの中には、生活に伴って色々なテイストの生活アイテムが置かれていきます。テーブルや椅子だけでなく、音楽が好きであればオーディオやスピーカー、料理好きであれば食器や調理器具、あるいは子供達の遊ぶさまざまななおもちゃなど、テイストの異なる生活アイテムが時間を積み重ねるにつれて増えていきますが、モノが増えていった際、雑然として見える空間と、トーンが揃って見える空間の2種類に分かれます。モノが増えていってもトーンが揃って見える空間が包容力のある空間です。

何が2つの空間を分けるのかといえば、しっかりとした特徴がある空間であるか否か、言い換えれば個性的な空間であるか否か、という点だと思います。特徴に乏しい空間は、その中に置かれたモノのテイストに雰囲気を乱されてしまいますが、特徴ある空間であれば、置かれるモノのテイストに乱されることなく空間の特徴を保つことができます。

では、特徴のある空間は、どのように作ればよいのでしょうか?特徴ある空間を作るための一つの方法は、空間の特徴を統一することだと思います。家づくりをしていると、場所ごとに異なる特徴を盛り込みたい衝動が湧いてきます。しかし、場所ごとにアレもコレもいろいろな特徴を盛り込み過ぎてしまうと、いったい何がやりたいたかったのか、メインの特徴が見えにくくなってしまいます。欲望を抑えて特徴を絞り込み、その一つの特徴を引き立てるように、他のすべての要素を整えていくことが実現する方法です。

その空間の特徴(個性)とは、どこかの雑誌で見たような、どこかから借りてきた特徴でなく、そこに住む人自身の美的センスや趣味などからから立ち上がってきたオリジナルであることが大事です。明るく開放感のある空間が好みだったり、明るさを抑えたしっとりとした空間が好みだったり、人はひとりひとり趣向が異なります。そこに住む人の趣向を正確に読み取り、住む人の個性が正しく反映された空間。そんな空間が包容力を持つのだと思います。

包容力を設計段階で盛り込む

そこに暮らす人は自分の好みで、さまざまな道具や家具を選び、部屋の中に置いていきます。モノが置かれる空間が、そこに置かれるであろうモノたちと同質のテイストを持っていれば、当然、しっくりと馴染む(つまり、包容力を持つ)はずですし、その読み取りがブレていれば、雑然とした統一感のない(包容力の無い)空間になってしまいます。

設計者は、設計段階のヒアリングを通して、そこに住む人が何が好きで何が嫌いか、どんな時間や空気感が好みかなど、住む人の趣向を読み取っていきます。その趣向を設計に活かし、建物・空間へと反映していきます。住まい手の趣向を上手く読み取れていれば、必然的に、そこの置かれるであろうモノのテイストと相性がよくなるはずです。包容力は、事後的に表れるように見えますが、既に設計の段階から予想され、意図をもって実現されているのです。

ただし、暮らす方のセンスも大事です。モノを選ぶ際には、きちんと自分の趣向に合ったモノを選ぶこと。趣向が統一されたモノと空間は、互いに影響しあい、互いの個性を強めていきます。

暮らしの気配や匂いが残っていてこそ、美しく見える空間。完成直後のモノが何もない空間よりも、生活のモノが並んでこそ、美しく見える空間。そのような包容力のある空間を設計していきたいと思っています。