建物の設計を進める際には、そこに暮らす方の住まい方や趣向、生活パターンなど内的な要求が一つの手掛かりになりますが、内的な手掛かりとは別に、外部環境から生まれてくる手掛かりというものもあります。
建物は、外部環境から切り離された場所に建っている訳ではなく、その土地ならではの気候風土や周辺環境の中に建っています。その建物が建つ外部環境を読み取り、建物に活かすことも重要な設計の手掛かりになります。
今回の計画地には、もともと計画地にあった既存樹木を出来るだけ活かし、その樹木を手掛かりとして、どのように設計を進めたかを記事にしました。
既存樹木に隠れるように建つ
今計画の敷地には、既存建物と庭木がありました。既存建物は新たに建物を建てるために解体しましたが、既存樹木を伐採せず、出来る限り残すよう指示しました。建物が立ち上がった際、外観が樹々に隠れるような控えめな佇まいとして表れてほしいと考えたからです。
上の写真は、建物が建ち上がった直後の外観です。初冬の風景のため、緑の葉っぱは既に落葉していますが、樹々に隠れるように建物が建っているのが見て取れます。新築なのに、まるで以前から建っていたかのような佇まいです。
このように建物の配置位置や外形を決める際に、既存樹木が設計の大きな手掛かりとなりました。
既存樹木を借景として切り取る
建物内部の写真です。窓の外には、色づいた紅葉が見えています。既存樹木は樹齢を経た堂々とした姿をしていたので、その景観を窓で切り取り、建物の借景として取り入れようと考えました。
外の風景を窓で切り取ることをフレーミングと言います。見せたくない風景は壁で隠し、見たい風景だけを窓で切り取り、強調して見せる手法です。
人の目は、フレーミングされることで焦点が絞られ、今まで見えなかったものが見えるようになります。下の写真は、建物が建つ以前の敷地写真です。ほぼ同じ角度から写真を撮っています。
ただ敷地を見ただけでは、焦点が分散してしまい、樹木や遠くの風景に目が行きません。フレーミングすることで初めて、敷地の風景を引き立たせることができます。
こちらも同様に、既存樹木が美しく見えるよう、窓で風景をフレーミングしています。建物の配置は、隣地境界線と並行に配置せず、樹々が良く見えるよう、角度をつけて配置しています。建物のプランニングをする際や窓を配置する際にも、既存植栽の位置が手掛かりになりました。
目の前にある外部環境を積極的に設計に取り入れ計画してみてください。ただ内部的要求だけに答えるのではなく、敷地環境という外部環境に耳を澄まし、工夫することで、より良い快適な住空間を実現することができます。