「燕あおうづの平屋」では、壁仕上げを全てラワン合板張りとしています。壁仕上げだけでなく、家具の扉や建具など、統一できる個所はすべてラワン仕上げとしました。仕上げ材をできるかぎり限定することで、空間に統一感が生まれます。ラワン材は、私たちが木といって思い浮かべる木の表情そのままのイメージで、表面がざらっとしており、触れた感じも柔らかで、しっとりと落ち着いた雰囲気の空間を作るのに適しています。
ラワン合板は、以前は下地材として使われていたこともあり、仕上げ材として使われるイメージがないかもしれませんが、貼り方次第では、合板に見えないくらいの仕上がりが期待できます。が、ただ闇雲にラワン合板を貼ればよい訳ではありません。きちんと手順を踏んで工事をすることで、美しい空間が実現できるのです。
ラワン合板選び
まず最初に必要な作業は、合板選びです。ラワン合板と一言でいっても、各合板メーカー毎に色目や木目の質感が異なります。どこのメーカーの合板を使うか、サンプルを取り寄せて選定します。ラワンと呼ばれている樹種にも、白っぽいもの、赤身がかったもの、黄色っぽいもの、とさまざまな色味があります。どのようなイメージの空間を実現したいのかによって選定する合板メーカーは変わってきます。今回は、比較的赤身がかった色味の合板を選定しました。
合板材は、仕上げ材として売られている訳ではありませんので、場合によってはパテ処理がしてあったり、割れが入っていたりと、仕上げに向かないモノも混じっています。工務店に合板を仕入れてもらい、その中から仕上げに使えるものを選別していきます。製造ロットによっては、仕上げ材として使えないものが多かったりします。すべての合板を廃棄する訳にはいきませんので、パテや割れの状態を見ながら、合板をどのように張っていくかを検討します。
今回は全ての合板を細長くカットして横長方向に張ることにしました。合板一枚一枚は、数ミリ単位で大きさに違いがあるため、きれいに貼るには、合板の端部を再度カットして大きさを揃える必要があります。ラワン合板自体は、材料費は安いのですが、選定過程で破棄される分があったり、大きさをカットして整えたりと、実は見えない部分で意外に手間と費用が掛かっています。
ラワン合板を張る
工場で寸法をカットして揃えたラワン合板が、現場に搬入されました。この合板を大工さんが現場の寸法に合わせてカットし、一枚一枚貼っていきます。場所ごとに少しづつ寸法が異なるため、一気に張っていくことはできません。壁に合わせては削って、削っては合わせての根気のいる作業が続きます。
また、ただ貼れば良い訳ではありません。ラワン合板は一枚ごとに、色目が濃いめだったり、薄めだったり、木目が強く出ていたり、弱めに出ていたり、それぞれが個性を持っています。色目が濃い中に一枚だけ薄い合板が入っていては、違和感が出てしまいますので、体の色目と木目のバランスを見ながら合板を選定し、貼っていく必要があります。
今回は、空間に視覚的な広がりを持たせようと考え、横向きに合板を張ることにしました。下から順に上に向かって合板を張り上げていきます。
作業は想像していた以上に捗らず、工程が予想以上に遅れてしまいましたが、急いで作業を進めることで仕上がりが汚くなってしまっては元も子もありません。ただただ、大工さんには丁寧に、根気よく、工事を進めることをお願いしました。仕上がり精度は、大工さんの腕に掛かってきます。
ラワン合板仕上げの表情
合板が張り終わった壁の写真です。これが合板?というような落ち着いた雰囲気に仕上がっています。幅の狭い木板張り仕上げだと、ログハウス調のごてっとした感じになってしまうのですが、合板特有の平滑なすっきりした感じを持ちつつも、自然素材らしい木目の表情を残した絶妙なバランスで仕上がっています。この独特の仕上がりは、ラワン合板でしか出せないように思います。
今回は仕上げ塗装をせず、素地のままとしていますが、塗装を施すことで、より深い色目に仕上げることもできます。仕上げたばかりの淡い色合いも、陽に焼けるなど経年変化で次第に飴色へと色味が変化していきますので、色の変化を愉しむのも、また一興です。
仕上げ色を限定する
今回は、壁仕上げだけでなく、家具や建具もラワン仕上げで統一し、その他のハンドルや照明器具、スイッチ類などの要素は、グレーまたはシルバー調で揃え、色目を茶系とグレー系のみに制限しました。使う色目を限定することで、統一感のある空間が生まれます。
この空間で生活が始まれば、生活用具や家具や小物などが増え、さまざまな色味が加えられてくるでしょう。それらのモノが差し色として上手くこの空間の中に映えるよう、建築空間の色味を限定するのは有効な手段だと思います。あくまで建築空間は、目立つことなく生活の背景として存在するべきものですので。
木のオレンジ系色とブルーグレー系色は反対色ですので、一般的に色合いが悪いとされていますが、トーンを抑えることで色味の調和を図っています。また、できる限り艶消しのざらっとした仕上げ材を選ぶことで、質感を馴染ませることも意識しました。
下地材を仕上げ材として使う
今回の建物では仕上げに、ラワン合板張りを積極的に使いました。また、部分的にはフレキシブルボードやモルタル仕上げなど、通常、仕上げに使わないような下地材料を仕上げに使っています。普段は下地材として使われている材料でも、見かたを変え、貼り方に工夫を加えれば、見違えるほど上質な仕上げ材へと変化させることができます。
既存の概念に縛られず、自分の感性で、いろいろな建材・材料をぜひ仕上げ材に採用してみてください。きっと今までない新たな発見があるはずです。