感覚が切り替わる建築|バウスヴェア教会

コペンハーゲン郊外に建つ、ヨーン・ウッツォン設計のバウスヴェア教会。

訪れる前から、白く大きくうねる礼拝堂の天井は、写真で何度も見ていました。

教会の外観を見る

ところが実際に建物の前に立ってみると、そこに教会らしさはほとんど感じられません。

白い壁が長く続き、窓もほとんどない。装飾らしいものも見当たらず、倉庫か工場のようにも見えます。

そのそっけない外観からは、この中にあの礼拝堂があることさえ、なかなか想像できませんでした。

そして、入口の扉を開けます。

中に入った瞬間、外とはまったく違う空間が現れました。

重力がなくなったような廊下

外から建物の中へ入ると、最初に現れたのは、細長い廊下でした。

白い壁と天井、打放しのコンクリート、淡い色の木。使われている色は驚くほど少なく、外の景色が見えません。

その一方で、頭上のガラス天井からは自然光が降り注いでいます。

外にいるわけではないのに、普通の室内に入った感じがしない。

扉を一枚隔てただけなのに、急に重力がなくなったような、現実から少し離れた場所へ入り込んだような、不思議な感覚がありました。

廊下を歩いていると、外の天候が変わるたびに、内部の明るさや表情も変わっていきます。

柔らかな光の廊下
日が差した廊下

外の景色は見えない。それでも、外の光の変化だけは敏感に感じられる。

この廊下を歩くことから、バウスヴェア教会での不思議な空間体験が始まりました。

扉を開けるたび、違う空間が現れる

廊下に並ぶ扉を開けて部屋へ入ると、空間の雰囲気が一変します。

白とコンクリートを中心とした廊下に対して、部屋の中では木の色がぐっと増えます。天井も低くなり、格子状の窓からは中庭の光や緑が見えています。

集会室より中庭を見る

先ほどまでの、どこか現実感の薄い廊下とは違って、急に人の居場所に戻ってきたような感じがしました。

部屋によって、その雰囲気も少しずつ違います。天井が平らな部屋もあれば、木の天井が大きく湾曲している部屋もあります。部屋の広さや天井の高さ、光の入り方も同じではありません。

木の湾曲天井の部屋

それぞれは決して大きな部屋ではないのですが、扉を開けるたびに空間の感じが変わります。

そして部屋を出ると、また白い廊下へ戻る。

廊下も、どこまでも同じ空間が続いているわけではありません。場所によっては、頭上を横切るコンクリートの梁の垂れ下がる寸法がそれぞれ異なっています。歩いていると、その違いが独特のリズムをつくっていました。

垂れ壁梁の高さが異なる廊下

廊下から部屋へ。部屋から廊下へ。

そのたびに、明るさや色、天井の高さ、素材、外との距離が切り替わっていきます。

何度も廊下と部屋を行き来しているうちに、不思議なことに、建物の中を歩いているという感覚が薄れていきました。

部屋から廊下へ出ると、まるで建物の外へ出たように感じる。そして別の扉を開けると、また中へ入っていく。

中から外へ、外から中へ。まるで、小さな都市の中を歩いているようでした。

礼拝堂2階部分

牧師の説明の中で「バザールのような」という話があり、その言葉を聞いて、この感覚が少し腑に落ちました。

廊下は単に部屋と部屋をつなぐための通路ではなく、街の中の通りのような場所なのかもしれません。その両側に性格の異なる場所が並び、そこへ入り、また通りへ戻ってくる。

一つの建物の中にいながら、内と外を何度も行き来しているような感覚がありました。

低い天井の先に、礼拝堂が現れる

廊下やいくつかの部屋を行き来しながら、礼拝堂へ向かいます。

礼拝堂手前の天井の低いスペース

礼拝堂の手前まで来ると、それまでとは空間の感じがまた変わりました。天井がぐっと低くなり、太いコンクリートの梁が頭のすぐ上を何本も横切っています。

左を見ると、すでに礼拝堂のベンチが並んでいるのが見えます。

それまで頭のすぐ上にあった天井がなくなり、一気に上へ空間が広がりました。写真では何度も見ていた、白く大きくうねる天井です。

礼拝堂

実際にその下に立ってみると、想像していたよりもずっと高く、空間そのものも大きく感じられました。低い場所を通ってきたからこそ、その高さをより強く感じたのかもしれません。

光が降りてくる礼拝堂

礼拝堂で印象に残ったのは、大きくうねる天井だけではなく、上方から落ちてくる柔らかな光でした。

強い光が直接差し込んでくるというより、白い曲面全体が光を受け止め、反射した光が礼拝堂へ柔らかく降り注いでいるように感じました。

上から光が降りてくる礼拝堂

大きな空間でありながら、どこか穏やかです。しばらくそこにいると、時間までゆっくりと流れているように感じられました。

外で日が翳れば、礼拝堂も少し暗くなる。再び日が差せば、白い天井が光を受けて、空間全体がゆっくりと明るくなっていきます。その変化はとても繊細でした。

外へ出ると、夢から覚めたようだった

礼拝堂を出て、再び廊下を歩き、建物の外へ出ました。

教会の外観

振り返ると、そこにあるのは、最初に見たそっけないほど簡素な外観です。白い壁が続き、窓もほとんどない。中にあれほど多様な空間が広がっていることは、やはり外からは想像できません。

建物の中では、廊下から部屋へ、部屋から再び廊下へ。そして最後に礼拝堂へと進むたびに、空間の感じ方が何度も切り替わりました。

天井の高さ、光の入り方、外との距離、素材の違い。それぞれは小さな変化なのですが、それが重なることで、一つの建物の中にいるとは思えないほど、多様な体験が生まれていました。

そして外へ出ると、それまでの豊かな空間が突然途切れ、いつもの日常へ戻ってきたように感じます。まるで、長い夢から覚めたようでした。

礼拝堂内部

バウスヴェア教会について

バウスヴェア教会(Bagsværd Church/Bagsværd Kirke)は、コペンハーゲン郊外のバウスヴェアに建つ教会です。

設計は、シドニー・オペラハウスなどで知られるデンマークの建築家ヨーン・ウッツォン(Jørn Utzon)。1976年に完成しました。

細長い敷地に、礼拝堂だけでなく、集会室、教会事務室、教室など、さまざまな機能が配置され、それらをトップライトのある廊下がつないでいます。

外観はプレキャストコンクリートによる簡素な構成ですが、礼拝堂内部には鉄筋コンクリートによる大きな曲面天井がつくられています。

所在地:Taxvej 16, 2880 Bagsværd, Denmark
設計:Jørn Utzon(ヨーン・ウッツォン)
竣工:1976年
用途:教会