
2階建ての住宅を作る際、リビングを2階に持ってくるとどんな暮らしになるでしょうか?
明るくて開放的。外からの視線も気になりにくい。条件が合えば、景色まで取り込める。
その反面、階段が毎日大変そう。老後の不安。荷物を運ぶのが面倒など、不便な印象もあります。
どちらも正直な感覚だと思います。2階リビングは良いか悪いか、という問いの立て方自体が、少しずれているかもしれません。
間取りに正解はなく、その土地でどう暮らすかによって、答えは変わります。
2階リビングは、土地の条件から導き出される
2階リビングは、流行りや好みで選ぶものではありません。
住宅が密集した敷地では、1階に大きな窓を設けても、道路や隣家からの視線が気になって開けられないことがあります。窓外に庭が設けられない、日当たりが確保しにくい、など不利な条件の中では、2階にリビングを上げることで、陽の光とプライバシーを同時に得られることがあります。
設計判断として2階リビングを選ぶとき、そこには必ず、この土地だからこそという理由があります。
周囲を囲まれた土地で、風景を取り込む
こちらの建物は、新潟市郊外の住宅です。
敷地は南と西の二方向が道路に面しています。西側の道路向かいには2階建ての住宅。南側の向かいには学校。東側は境界ぎりぎりまでアパートが迫っています。北側にも平屋が隣接していました。周囲を道路と建物に囲まれた、典型的な住宅密集地です。
1階にリビングを置けば、視線を遮るために窓を小さくするか、カーテンを閉めたまま暮らすことになります。それでは光も景色も諦めることになります。
そこでリビングを2階に上げることにしました。
この敷地は南西の方向に唯一視界が開けていました。田園風景とその先に続く山並み。1階では絶対に得られなかった景色です。
この住宅では、1階と2階で意図的に空間の雰囲気を変えています。1階の個室や寝室は、天井を張らず2階の床裏と梁を現しにし、天井高を抑えた落ち着きのある空間としました。対照的に2階は屋根勾配に合わせた高い勾配天井で、開放感のある空間になっています。


低く静かな場所で眠り、高く明るい場所で食事をする。この対比が、面積以上の豊かさをつくり出します。
階段は蹴上167mm、踏み面227.5mmと緩やかな勾配で、2つの異なる上下空間をつなぎます。
好みだけで2階リビングにしたのではありません。この土地では、2階に上げることが合理的な答えでした。そしてその判断が、建物全体の空間構成を決めていきました。
問題は階段ではなく、動線
2階リビングへの不安として最もよく聞くのが、階段が大変という声です。
ただ、問題は階段の存在そのものではありません。無駄な上下移動が積み重なることが、じわじわとストレスになります。
例えばこんな場面です。
朝、1階の寝室で目が覚める。顔を洗いに2階の洗面へ。1階のクローゼットへ降りて着替えをした後、2階で朝食をとる。朝食後に1階玄関から出掛ける。買い物から帰って、重い荷物を持ったまま2階へ上がる。夜中にトイレへ行くたびに、階段を上り下りする。
一回一回は小さなことですが、毎日続くと確実に負担になります。これは2階リビングの宿命ではなく、動線設計の問題です。設計の段階で考えておけば、かなりの部分を軽減できます。
1日の暮らしを想像して、間取りをつくる
実際に一日の暮らしの場面から間取りをイメージしてみます。
夜間の移動
2階にLDKと水回りをまとめ、寝室を1階に置く構成はよくあります。ただこの場合、トイレが2階だけだと夜中のトイレ移動が毎回階段になります。
若いうちは気にならなくても、体調が悪い夜、小さな子どもが起きたとき、年をとってからのことを考えると、じわじわと負担になります。1階にもトイレを設けておく。それだけで夜間の暮らしがずいぶん変わります。
買い物・荷物
お米、飲料のケース、トイレットペーパー、洗剤。こういった重いものを毎回2階へ持ち上げるのは、現実的ではありません。玄関まわりに納戸や収納を確保し、備蓄や重量物は1階で管理する。上げなくて済むものは上げない設計をします。
家事の流れ
LDK、洗面、浴室、洗濯、収納を2階にまとめると、日中の生活をほぼ2階で完結できます。大切なのは生活のまとまりをつくることです。1階と2階を何度も行き来しなくて済む動線をつくれば、階段があっても暮らしのリズムが整います。
階段
勾配を緩やかにする、踏み面を広くとる、途中に踊り場を設ける、手すりの位置を使いやすくする。階段は設計の工夫で、上下しやすさが変わります。
向いている敷地、向かない敷地
2階リビングがすべての家に合うわけではありません。
周囲が建て込んでいて1階の日当たりが取りにくい敷地、道路や隣家からの視線が気になる敷地、2階から景色や空が望める敷地。そういう条件では、2階にリビングを上げることが自然な答えになります。
逆に、1階でも十分な日当たりと開放感が得られる敷地、庭との一体感を大切にしたい暮らし、将来的に1階だけで生活を完結させたい場合には、2階リビングを選ぶ理由は薄くなります。
またご家族の人数や年齢、生活パターンによっても、適しているかどうかが変わります。
どちらが良いかではなく、その土地と暮らし方に照らして判断するものです。
間取りは、図面の上で部屋を並べるものではありません。

朝起きてから夜眠るまで、1日の暮らしの流れの中で考えるものです。どこで顔を洗い、どこで食事をして、どこで洗濯をして、夜中にどう動くか。そういう具体的な場面を積み重ねていくと、自然と間取りの輪郭が見えてきます。
2階リビングも同じです。流行だから選ぶのではなく、その敷地と暮らし方から考えたとき、必要な答えとして生まれるものだと思っています。
住宅の設計を考えるとき、まず敷地を見て、次に暮らし方を聞く。その順番が、間取りの質を決めます。
