空間の多様性、心地よい陰影、視線コントロールがつくる豊かな住まい

豊かな住まいとは、単に生活機能を満たすだけではありません。そこには、住む人の感覚や心理に響くような心地よさ、安らぎ、そして暮らしの面白さがあります。この記事では、そんな豊かな住空間を創り出すための建築的な工夫に焦点を当てます。

具体的には、一つの建物内に様々な雰囲気を持つ空間を意図的に共存させる「空間の多様性」、視覚的な単調さを避け、目や心が休まる「心地よい陰影」、そして空間に変化と奥行きをもたらす「視線のコントロール」といった工夫が、どのように私たちの暮らしを豊かにするのかを探ります。これらの要素が組み合わさることで、単なる箱ではない、居心地の良い魅力的な空間が生まれてきます。

空間の多様性をつくる工夫

一つの建物の内部に、様々な雰囲気を持つ空間を意図的に共存させるよう設計しています。一つの建物の中に、広くて明るく天井の高い空間、また逆に狭くて落ち着きのある天井が低い空間が共存することで豊かで多様な空間が生まれます。

例えば、「越後曽根の平屋」では、LDKは高さのある勾配天井で明るく広がりがありますが、書斎や個室は天井高を抑え、明るさを抑えた静かで安らぎのある空間としています。

これにより、ワンルームのような繋がりがありながらも、場所ごとに異なる雰囲気や居心地が生み出し、その時の気分に合わせて様々な場所を選べる自由度の高い住空間を実現しています。

場合によっては、壁を斜めに配置したりスキップフロアを設けたりして、床や天井の高さ、空間のボリュームに変化を持たせることもあります。

心地よい陰影を創り出すこと

心地よい陰影は、明暗のバランスのとれた魅力的な空間を創り出します。

光と影のコントラストがあることで、視覚的な単調さを避けることができます。均一な明るさは効率的な作業には適していますが、どうしても単調な空間となってしまいがちです。

明るすぎる空間は、目に負担をかけてしまうと言われています。空間に適度な陰影があることで目が休まり、ひいては心が休まり、リラックスできます。

他の場所よりも光量が少ない空間は、隠れ場所として機能し、その中にいることで心理的な安心感を得られることがあります。子供がちょっとした凹みなどの狭い場所を見つけて遊んでいることがありますよね。

仕上げる素材によっても空間の陰影は変わります。ざらっとした仕上げ材を使えば、光の拡散を抑えられ、明暗にグラデーションのある落ち着いた空間になりますし、光沢のある仕上げ材を使えば、明暗コントラストの強いシャープで洗練された空間になります。

視線をコントロールすること

視線をコントロールするために、壁の配置や開口部を工夫し、視線をつなげたり遮ったりすることで、空間に変化や奥行きを与えています。

部屋に入った瞬間に空間すべてが見渡せるようでは、やや単調になりがちです。最初に部屋に入った時には奥まで見通せないとしても、奥へと進むにしたがって視線が繋がったり、遮られたりと、次々と視線が変化していく空間の方が暮らしに面白みが生まれます。

時には中庭を介して、窓の外に別の部屋が見えるなど。視線を操作することで、多様な空間の繋がりを創り出すことができます。

豊かな住まいを創り出すために


この記事では、単に生活するための箱ではない、豊かな住まいを創り出すための鍵となるデザイン的な工夫について紹介しました。

「空間の多様性」、「心地よい陰影」、「視線のコントロール」といった建築的な工夫は、単に機能的な空間を作るだけにとどまりません。これらは、居心地の良さ、安らぎ、暮らしに面白み、心理的な安心感といった、そこに住む人の感覚や心理に深く関わる豊かな体験を生み出すためのデザインなのです。真に心地よく、心満たされる住まいとは、こうした細やかなデザインの積み重ねによって実現されると言えるでしょう。