現在、松野尾の平屋の設計が進行中です。最近は、図面作成はパソコンのモニタ上で行い、依頼者とのやり取りもメールで行うことが大半ですので、紙図面などのアナログ媒体でのやり取りはめっきりと減ってきています。以前であれば、設計を行っている最中は、事務所の机の上が図面の山になっているなんてこともありましたが、最近ではそのような風景を見ることはありません。行っている作業の主体がデジタルデータでのやり取りなので、実際に目に見える(写真に写る)形で伝えることが難しい現状です。
デジタルデータで設計のやり取りする
依頼者との日常的なやり取りは、基本的に図面をPDF化して、メールでやり取りします。iPadなどのタブレット端末でPDFデータを開いて、コメントなど図面内に書き込み、メールで送信します。受け取った依頼者も、場合によっては、そのPDF図面にコメントを書き込んで返してもらいます。デジタルデータは、互いの意図をやり取りするには、非常に有効な手法です。(とはいえ、実際に会って打合せをすることは、互いの思っていることのズレを無くすために必要ですので、完全に打合せを無くすことはできません)
設備機器や仕上げ材を選ぶ際には、メーカー製品のリンク先を張り付けて、ウェブ上で確認してもらったり、と顔を突き合わせなくとも、日々のやり取りだけで設計を進めていくことができます。以前であれば設計を進めていくためには、2週間に1回程度、実際にお会いして打合せをすることが必須でした。その場合、意思決定を行う際には、打合せまで日を待たなければならず、設計作業が滞ることがありました。
今や、毎日メールでやり取りして、その都度、方向性や意図を確認することが出来るので、とてもスムーズに設計作業を進めることができます。効率が良くなった分、設計者が検討する時間を増やすことができ、より良い空間を作り出すことへと繋がっています。また依頼者も、週末ごとの打合せで大事な意思決定を即決することは、負担が多いため、時間の空いた時にちょっとずつ検討を進めることは余裕を持って考えることができるので、自分の思い描いた空間を実現することへと繋がっているようにも感じます。
事務所の所在地から依頼者の住まいが遠い場合、打合せの度に出張料が必要となりますが、デジタルデータでやり取りが可能であれば、打合せ回数を減らすことが出来るので、設計料を安く抑えることができます。
アナログで設計のやり取りをする
デジタルデータのやり取りだけで設計が完結する訳ではありません。実際に顔を合わせて話をすることは、データのやり取りでは表れない重要な情報の伝達がありますし、何よりも信頼感が増します。特にテキストでは伝えにくい微妙なニュアンスなどは、話をすることで初めて伝えることが出来ます。
私の事務所では、パソコン上での3Dモデリングは行わず、昔ながらのアナログな方法で、スタディ模型を作ることにしています。模型を前に打合せをすれば、立ち上がってくる空間のイメージを互いに共有することが出来ますし、その模型を覗けば、ここはもっとこうしたい、こっちはこうできないのか、などより具体的に話がはずみます。
写真やデジタル情報だけでは伝えきれない質感が物質にはあるので、仕上げ材などは、実際のサンプルを手に取って手触りや質感を確認してもらうようにしています。カタログ写真で見るかぎりでは良い感じに見えたけど、現物を見たらイメージと違った、ということは良くあることですので。インターネットでなんでも情報が入る時代に、なんとも回りくどいのですが、現物を手に取って確認することの重要性が増しているように感じます。
デジタルだけではダメ、アナログだけでもダメ。デジタルとアナログ、両方を上手く組み合わせて打合せをすることが、良い建物・空間を実現していくためには欠かせません。