沖縄本島の恩納村のムーンビーチを取り囲むように建つ「ホテル ムーンビーチ」。沖縄復帰直後の昭和50年(1975)に竣工したホテルは、地元沖縄の建築家、国場幸房によって設計されたリゾートホテルである。
エントランスロビーとレストランを中心に配置し、そこを中心に南北方向へと伸びる2棟の客室棟が美しいムーンビーチをややくびれて取り囲む構成となっている。客室棟の中央部には、全ての階層を上下に貫く吹き抜けが位置し、吹き抜けの上部からは沖縄の強い光と南国の緑が降り注いでいる。その吹き抜けの最上部には屋根は無く、廊下も含めて屋外空間となっている。とてもおおらかでダイナミック空間構成、内部・外部が交互に、かつ、等価に組み合わされた空間構成、それがこの建物の特徴となっている。
ホテル内を歩くと、室内を歩いていると思いきや、実は既に外に出ていたり、外と思っていたら内部であったりと、内部と外部が等価に扱われていて、自然の気候との共存が意識されているのが良くわかる。
建物内のそこかしこで吹き抜ける海風はとても心地よく、暑い夏の日でも風が吹けば、まるで木陰の下にいるような心地よい場所がそこかしこに実現することが容易に予想されます。(訪れた当日は初夏の寒い日であり、それを実感することは出来なかった。夏にぜひとも改めて訪れてみたい)
ついつい、設計者という職業柄気になってしまうのだが、こちらのホテル、客室エリアの割に共用部の床面積の割合が非常に多い。ホテルであれば、宿泊費という売り上げ(利益)を稼ぎだす部分は、客室である。宿泊施設という経営面から考えれば、共用部分を減らしてでも、客室を増やそうと考えがちである。
リゾートホテルというのは、ビジネスホテルなどと異なり、長期で滞在するというパターンが多いのだろう、ゆえに、ある程度の長い期間をその場で過ごすことが想定される。直接的に宿泊費を稼ぎださない部分に、これだけの空間、つまり、建設予算を割くことによって、このホテル内で過ごす時間が豊かになり、他のホテルにはない独創的な滞在価値が生み出されている、と言っても過言ではないだろう。
武骨な作りの連続していく手摺、軽快な床の表現、吹き抜ける潮風、窓外に見える青い海、色々な空間要素が重なり、ホテル滞在中、まるでクルーズ客船に乗船しているような気分であった。
設計者が何をイメージしてこの建物を設計をしていたのかは、今では想像するしか手はないのではあるが、このホテルを設計するにあたって、設計者は国外へ視察旅行へ出かけたという話がある。その旅の途中でクルーズ船に乗船し、そのイメージが頭の中にあったのではないかと、勝手に妄想してみる。