村野藤吾設計、谷村美術館。門をくぐり回廊の中へと入る。眼前には白砂利の敷き詰められた中庭。白い庭の向こうには岩を彫り出したかのような物体が見えてくる。さっきまで見ていた糸魚川の街の風景から一転、異空間に迷い込んだような感覚を覚える。
設計者曰く、シルクロードの岩窟遺跡をイメージしたという。どこか懐かしいようでありながら、今までに見たこともない景色。雨だれの跡がついたグレーの外壁は、ずっと太古からそこにあったかのような表情を見せている。建物のどこを見ても、どれひとつとしてまっすぐな部分はなく、すべてが曲線を描き、くねくねとした形。生命をもった生き物のように、今にも動き出しそうだ。
建物の中へと入る。内部の空間は、くねくねと流れるように繋がり、まるで胎内のよう。この美術館は仏像を鑑賞するための美術館である。その美術館が仏像の内部、つまり胎内をイメージして作られている。仏像の胎内を巡りながら、仏像をひとつひとつ鑑賞していくという趣向。驚いたことに、この美術館には順路案内がない。一つの仏像を見ていると、壁の隙間から、次の仏像が手招きしているようにちらりと見え、その仏像の方向に向かって歩いていくと、更に次の仏像が見えてくるという仕掛けになっている。
このような仕掛けの調整を、設計者、村野藤吾は自ら現場に立ち、その場で直接指示したという。その時、村野氏92歳。その翌年にこの世を去るのだが、一体、どのような想いを持って、この建物を作ったのだろうか。村野氏のとてつもない意気込みを感じる建物。設計に携わる者なら一度はこの空間を体験しておいて損はない。
谷村美術館HP
住所:新潟県糸魚川市京ケ峰2-1-13
開館時間:9時〜16時30分
休館日:12月28日から1月4日まで
入園料:一般500円(谷村美術館+玉翠園)
電話:025-552-9277