「岩室の家」の外観は、一見すると普通の家に見えるかもしれません。それくらい町並みに溶け込んで見えます。こちらの家の設計条件は「瓦屋根をのせること」でした。学生時代からモダニズム建築を学んできた私にとって、この設計条件は非常に悩ましいものでした。何も考えずに瓦屋根をのせれば、ただの昔ながらの民家になってしまいオリジナリティがないし。。。などとその時には頭を悩ませていました。その時はただ自己主張したいという思いだけが、先に立っていたのかもしれません。いわゆる、設計者のエゴです。若さもあったのでしょう。
頭を悩ませるうちに設計者のエゴを捨て、腰を据えて昔ながらの日本の建築、民家ときちんと向き会ってみようと考えるようになりました。昔ながらの普通に見える建物であっても、今まで現代建築を学んできた自分の感性を持って設計すれば、きっと異なるものになるのではないか、そんなことを考えて「岩室の家」を設計しました。玄人的な視点で建物の細部を見れば、屋根端部の繊細さや窓枠の納まりなど、現代的な感性が見てとれるはずです。
外観のプロポーションは、昔ながら行なわれてきたその地域の屋根勾配を踏襲して決めています。設計者が決めたのではなく、昔ながらのその土地環境が決めたといっても良いでしょう。そのため、周囲の家屋の屋根形状、勾配と全く同じに揃っています。町並に揃える。建物単体でなく、その町並み全体を見据えた上でデザインを決めていくこと。建築単体に固執することなく、一歩引き、更に大きな視点で見る。そうすることで町全体が調和し、美しさが増していくのだと思います。