床材を選ぶとき、何を基準にしていますか。色目、節の有無、値段——判断の軸は人それぞれです。でも設計者として私が手掛かりとしているのは、もう少し違うことです。
床は、家の中で最も広い面積を占める素材です。毎日素足で触れ、視界に入り続ける。だからこそ、床材の選択は空間の印象を決定づける、大切な設計行為だと思っています。
この記事では、私が床材を選ぶときに大切にしている視点をお伝えします。色目や値段だけでは見えてこない、足触りや香り、経年変化——そういった観点から床材を選ぶと、長く愛せる空間が生まれます。
足触りで選ぶ

床材を選ぶとき、私がまず考えるのは足触りです。硬さ、温もり、踏み心地——足の裏は思った以上に敏感で、床材の質感変化を確実に感じ取ります。
日本人は靴を脱ぐ生活スタイルゆえ、足裏感覚が特に敏感です。家の中ではスリッパも履かず、裸足で過ごしている方も多いのではないでしょうか。踏み心地の硬いフローリングは気持ちを引き締め、柔らかめのフローリングは気持ちをリラックスさせてくれます。床材の質感は、足の裏を通して、人の気持ちに変化を与えてくれるのです。
そこで私がよく採用しているのが、場所ごとに硬さを使い分けるという方法です。リビングなどパブリックな場所には、しっかりした踏み心地の硬めのフローリングを。寝室や個室などプライベートな場所には、足触りの温かい柔らかめの床材を選びます。同じ家の中でも、場所によって足触りが変わると、空間の性格が自然と足裏から伝わってきます。
ただし注意が必要なのは、表面にウレタンコーティングを施したフローリングはつるっとした触り心地で、樹種による質感の差が出にくくなります。無垢材フローリングでも、表面仕上げによっては質感が損なわれることがありますので、選ぶ際には仕上げの種類もあわせて確認してみてください。
香りで選ぶ
床材を選ぶとき、見落としがちなのが香りです。床は家の中で最も面積の大きな素材ですので、無垢材で仕上がった空間は、その木の香りに自然と包まれます。その香りが好みかどうかは、見た目と同じくらい大切な要素です。
樹種によって香りはまったく異なります。ヒノキや杉は独特の爽やかな香り、ウォルナットは香ばしい香り、南洋材は甘い香りがします。サンプルを取り寄せたときには、必ず匂いを嗅いでみてください。もし香りがしないようなら、やすりで表面を削ってみると香りがします。
香りは空間の雰囲気をつくります。寝室にヒノキや杉の床材を使うと、木から発するフィトンチッドという香り成分により、森林浴をしている気分で眠りにつけます。南国の雰囲気をつくりたければ、デザインだけでなく、南洋材を床材に選ぶことで、甘い香り漂う空間が実現できます。香りを意識して床材を選ぶと、空間の体験がより豊かになります。
部屋ごとに貼り分ける
床材を一種類で統一するのも一つの方法ですが、部屋ごとに貼り分けるのも、また面白みがあります。写真は、手前の部屋と奥の部屋で床材を貼り分けている例です。手前がナラのフローリング、奥がパインのフローリングです。ナラは比較的硬めの素材で、パインは柔らかな素材です。床材が変わると足触りが変わり、違った空間に入ったことが自然と感じられます。
以前手掛けた住宅では、LDKなどのパブリックな空間にはブラックウォルナット、寝室などのプライベートな部屋にはパイン、その他の部屋にはナラと、さまざまな床材を使い分けました。空間の性格に合わせて床材を選ぶと、それぞれの部屋に入ったときの気持ちの切り替えが自然に生まれます。
床材を選ぶときは、ウェブで見て決めるだけでなく、実際にサンプルを取り寄せ、見て、触って、踏んずけて選ぶことが大事です。写真で見て印象が良かったけれど、実際に貼ってみたら思っていたのと違った——そうならないよう、必ず実物で確かめてください。迷うようなら、自分の好みを伝えて設計者に相談してみてください。
経年変化を想像して選ぶ
床材を選ぶときに、もうひとつ意識してほしいことがあります。それは、経年変化を想像して選ぶ、ということです。
サンプルで見た色と、数年後の色は違います。ヒノキや栗、杉などの色目の薄い木は、年を経るごとに濃く、飴色へと変化していきます。一方、ウォルナットやローズウッドなど、もともと色の濃い木は、逆に色が薄くなる傾向があります。竣工したときの明るい印象が、時間とともに重厚な雰囲気へと変わっていく——そういう変化を楽しめるかどうかも、床材選びの大切な視点です。
傷も同じです。柔らかい木は傷がつきやすいですが、その傷が積み重なることで、独特の風合いが生まれます。経年変化を欠点ではなく、味わいとして楽しめる方に、無垢フローリングはとくに向いています。
経年変化についてより詳しくは、こちらの記事をあわせてご覧ください。
→ 無垢フローリングの経年変化
床材選びに、絶対的な正解はありません。足触り、香り、貼り分け、経年変化——どの視点を大切にするかは、その家に住む人によって異なります。
ひとつだけお伝えするとしたら、必ず実物を確かめてください、ということです。ウェブやカタログで見る色と、実際の質感は違います。サンプルを取り寄せ、見て、触って、踏んずけて——そのプロセスの中に、自分に合う床材との出会いがあります。
床材の仕上げ方法やメンテナンスについては、こちらの記事もあわせてどうぞ。
