渡邊洋治設計「斜めの家」の内部を特別に見せてもらうことができました。外観だけみると地中から浮上した鉛の潜水艦のような重厚な建物に見えますが、果たして内部はどのようになっているのか。期待に胸が膨らみます。
玄関ドアを開け、内部へ。玄関ドアといえば通常、外に向かって開くのですが、こちらのドアは内開き。ここ上越は豪雪地帯。雪が積もった際にドアが開けられないことに配慮し内開きとしたのでしょうか。玄関には下駄箱やコート掛け、内部から取り出せるポスト口と荷物受けが造り付けられています。奇抜な外観の印象に反して、内部の作り込みはとても細かく、きちんと使い勝手が考えられています。
玄関からスロープ状になった廊下へ。床には真っ赤な絨毯が敷かれ、両側の壁には大きさの異なる小さな穴がいくつもランダムに並んでいます。スロープは奥に向かって上へと登っています。傾斜した床のせいなのか、不規則な小さな穴のせいなのか、スケール感が失われるような不思議な感覚。廊下右手には手前から納戸、客間、キッチン、畳部屋の入口が並んでいます。各部屋の南側には大きな開口部が設けられ、明るい日差しが射し込んでいます。室内に入り込んだ光は床の赤い絨毯に反射し、室内を真っ赤に染めています。光の変化によって赤さが変化し、白い壁が刻々と色を変えていきます。まるで光のインスタレーションを見ているようです。
廊下のスロープは途中で折り返し、更に上へと上がっていきます。ランダムな小窓からは外が見えたり、他の部屋が見えたり、移動するに従い刻々と景色が変化していきます。雨戸の締まった真っ暗な2階の部屋の中へ。ガイドの方に障子の所、ちょっと覗いてみてくださいといわれ、そこを覗くと。。。なんと!驚くべき現象が。もしこの現象を意図して設計していたのだとすれば、その設計者の創造力たるや計りしれません。(これはここを訪れた方だけが体験できることなので、ここでは秘密にしておきます。)
外観からはおどろおどろしい威圧的な印象を受けたのですが、今回、内部に入ってみて感じたのは、ヒューマンスケールのかわいらしい建物だということでした。開口部には雨戸、ガラス戸、障子戸、簾戸が仕込まれ、家具の細部の作り込みや、光の入り方や風通し、小さな窓の納まりなど、さまざまな箇所で暮らしに合わせた細かな工夫がなされています。仲の良かった妹さんの家ということもあって、渡邊洋治は考えられる限りの工夫を盛り込んだのでしょう。頻繁にこの家に遊びに来ていたという話から、まるで自分の家のような思い入れがあったのかも知れません。ひとつひとつの作り込みから渡邊洋治の愛情がにじみ出ています。
また光と色の使い方がこれほど上手い建物を見たのは初めてでした。あのような光と色の使い方があるのかと、大変勉強になりました。今回伺ったのは晩夏の晴れた日でしたが、雪の積もった冬の日などに訪れればまた違った体験ができるのではないかと思います。ぜひまた機会があれば。
斜めの家
住所:新潟県上越市(非公開)
見学について:建物の一般公開はしていません。見学希望の方は下記HPへ問い合わせください。
参考HP:渡邊洋治設計『斜めの家』再生プロジェクト
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