
塗料選びは、フローリング選びと同じくらい大切な判断です。同じ樹種でも、塗料によって色目も質感もまったく変わる。カタログや説明文だけでは、実際の仕上がりはなかなかイメージできません。
だから私は、できる限り現物で確認するようにしています。実際に塗装した床を見てもらったり、竣工写真で雰囲気を確認したり、端材にサンプル塗装をして比べたり。手間がかかるようですが、塗料を一度決めたら途中で変えることはできませんので、この確認作業は省けません。
この記事では、杉の無垢フローリングに蜜蝋ワックスとドライワックスを実際に塗り比べた結果をお伝えします。どちらを選ぶかで、空間の雰囲気がどう変わるのか——設計者の視点でお伝えします。
なぜ塗装が必要なのか
無垢フローリングには大きく分けて、塗装済みと無塗装の2種類があります。無塗装品は、住み始める前に自分で塗装を行う必要があります。手間がかかるように思えますが、その分、好みの塗料を自由に選べるという利点があります。
無塗装のフローリング材は、現場に搬入されるまでの間、倉庫に長期間保管されています。その間に表面が乾燥し、油分が抜けている傾向があります。塗装を行うことで油分を与え、本来のツヤや質感を取り戻すことができます。また撥水性が生まれ、汚れがつきにくくなります。
住み始めてからも、経年変化で油分は少しずつ抜けていきます。そのため、できれば年に一回程度、メンテナンスとして塗装を行うことをお勧めします。定期的に塗り重ねることで、木の表面は年々ツヤが増し、より良い色目へと変化していきます。手をかけるほど、木は応えてくれます。
蜜蝋ワックスとドライワックス、塗り比べてみた

今回現場に張った杉フローリングは、色目が穏やかで柔らかい印象の床材でした。触れた印象も、さらっとしており触り心地が良かった。この質感をできるだけ残したい——それが塗料を選ぶときの出発点でした。
選んだのは、蜜蝋(みつろう)ワックスとドライワックスの2種類です。どちらも天然素材からつくられた自然塗料で、木の呼吸を妨げず、質感を残したまま仕上げられます。実際にどう違うのか、現場から端材をもらってきてサンプル塗装をして比べてみました。

どちらもバターのような脂分が固まったペースト形状をしています。塗料を塗る前に、少し暖かい場所に置いておくと脂分が溶けて柔らかくなり、塗りやすくなります。布にワックスをつけて、木の表面に薄く塗り伸ばしていきます。

塗装後の結果です。蜜蝋ワックスは濡れ色になり、杢目(もくめ)がくっきりと浮き出て、杉の表情がはっきりと出ました。ドライワックスは、塗ったと言われなければわからないくらい、ほとんど変化がありません。触り心地は、蜜蝋ワックスはしっとり、ドライワックスはさらっとした感じです。同じ杉材でも、これだけ表情が変わります。
どちらを選ぶか——設計者としての使い分け
サンプルを見比べて、私が感じたことをお伝えします。
色目と杢目をはっきりと出し、空間に存在感を持たせたいときは蜜蝋ワックスが向いています。一方、杉本来の柔らかな表情をそのまま活かし、優しい雰囲気に仕上げたいときはドライワックスが合います。どちらが正解というわけではなく、その空間にどんな表情を求めるかによって、判断が変わります。
今回は杉材でサンプルを作りましたが、樹種によっては色がもっと濃く出たり、杢目の出方が変わったりします。塗装後の表情は、実際に塗ってみないとわからない部分があります。できる限り事前にサンプルを作って確認することをお勧めします。
もうひとつ忘れてほしくないのが、経年変化との関係です。自然素材は日焼けによって時間とともに色が変わっていきます。今の色だけでなく、10年後の色も想像しながら塗料を選ぶと、長く愛せる床になります。
経年変化については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
→ 無垢フローリングの経年変化

こちらは塗装した表面に水滴を垂らして撥水性を確認した写真です。両方とも水をはじいていますが、蜜蝋ワックスの方がやや撥水性が高いようです。水をこぼしたときは、すぐに拭き取ればどちらとも問題ありません。
メンテナンスは自分でできる
経年変化で脂分が抜けてくると、撥水性が低下し、汚れがつきやすくなったり、表面がささくれだったりしてきます。そうなる前に、定期的に塗り重ねることが大切です。メンテナンスを続けることで、木の表面は年々ツヤが増し、より良い色目へと変化していきます。手をかけた分だけ、木は応えてくれます。
フローリングの塗装は、塗装屋さんに頼まなくても自分でできます。難しそうに思えるかもしれませんが、実際にやってみると想像よりずっと手軽です。私の事務所では、自分で塗りたいという方に塗り方のレクチャーを行っています。やり方さえわかれば、定期的なメンテナンスも苦になりません。塗装工事費の削減にも繋がりますので、興味のある方はぜひお声がけください。
ひとつだけ注意があります。一度塗ったオイル・ワックスは、同じものを塗り重ねていくことになります。途中から違う塗料に変えることはできません。最初の塗料選定が、その後ずっと続く付き合いになります。だからこそ、サンプルで確認し、慎重に選んでほしいのです。
塗料選びは、フローリング選びの延長線上にあります。どんな空間にしたいか、どんな暮らしを望んでいるか——その答えが、塗料の選択に繋がっていきます。
蜜蝋ワックスは、木の表情を引き出したいときに。ドライワックスは、木をありのままに見せたいときに。どちらが正解というわけではなく、その空間とその人に合っているかどうかが、判断の基準になります。
迷ったときは、実際に塗装した床を見に来てください。百聞は一見にしかず、実物を見て触れることが、一番の判断材料になります。
床材の選び方や経年変化については、こちらの記事もあわせてどうぞ。
→ 床フローリング材を選ぶ4つの視点
→ 無垢フローリングの経年変化
→ 無垢材の仕上げ種類とソープフィニッシュ仕上げの手順