
家づくりを考え始めると、欲しいものがどんどんと増えていきます。
広いLDK。もっと多くの収納を。子ども部屋も必要。書斎があればなお良し。照明も充実させたい。窓は大きく。仕上げにもこだわりたい。
どれも自然な要望です。否定するつもりはありません。
ただ、それらをすべて足していくと、コストは増え、空間は複雑になり、どこかノイズの多い家になっていきます。そして皮肉なことに、本当に大切なものが見えにくくなる。
家づくりは、不安があるほど足し算になりやすい。
一度立ち止まって考えてみたいのは、何を足すかではなく、何を省くかという問いです。
不安があるほど、家づくりは足し算になる
家づくりには、正解がありません。暮らし方次第で同じ回答が正解にも、不正解にもなります。
だからこそ、不安になります。これで十分か。あれも必要ではないか?後で後悔しないか。その不安が、足し算を加速させます。
収納が足りなくなったらどうしよう、と思って収納を増やす。暗い家になったらどうしよう、と思って窓を大きくする。狭く感じたらどうしよう、と不安になり面積を増やす。
結果として、すべてが70点の家ができあがります。広さも収納も照明も、一通り揃っている。でも、どこか印象に残らない。暮らしの中に、特別な場所がない。
不安から生まれた足し算は、平坦な家をつくります。
そぎ落とすことは、我慢ではない

そぎ落とす、と聞くと我慢する、と受け取られることがあります。でも、それは違います。
削ることは、諦めることではありません。本当に必要なものを選び取ることです。すべてを均等に揃えるのではなく、価値のある場所に集中させる。そうすることで、空間に強弱が生まれます。
全部を70点にするより、大切な場所に100点を使う。その方が、豊かな家になります。
予算の削減ではなく、予算の再配分という考え方です。収納やバックヤードは合理的にまとめる。その分をメインの空間であるリビングの光や景色、素材や開放感に使う。削った場所ではなく、集中した場所が、その家の豊かさをつくります。
設計とは、何を足すかだけでなく、何を省くかを考えることでもあります。
引き算の設計、3つの実例
設計の現場で具体的にどういう選択をしているか。3つの実例で見ていきます。
天井を張らないという選択

一般的な住宅では、天井にクロスを張ります。それが当たり前とされています。でも、本当に必要でしょうか?
天井を張らず、2階の床裏と梁をそのまま見せる選択があります。一見するとコストカットのように見えますが、これは単純な節約ではありません。
成立させるには設計力が必要です。梁寸法を揃える、梁組みを整理する、設備配管ルートを計画する、照明の位置と配線を考える。闇雲に天井をなくせば、ただ雑然とした空間になってしまいます。
引き算に見えて、実は高度な設計です。結果として、木の質感と構造の力強さが空間に現れます。
収納は仕上げないという選択

収納の役割は、物をしまうことです。
であれば、収納の内部を丁寧に仕上げる必要があるでしょうか。構造用合板や下地材を貼り、仕上げない選択があります。
これは安い材料を使うということではありません。仕上げること自体を問い直しています。下地材の素直な表情は、収納という機能空間にむしろ合っていると思います。
広さより、空間の質という選択

空間の豊かさは、面積だけでは決まりません。視線の抜け、外とのつながり、回遊性、天井の高さ、明暗のコントラスト。こういった要素が、面積以上に空間の豊かさを作り出します。
コンパクトでも豊かな空間はつくれます。逆に、広くても平坦な空間はあります。面積を増やす前に、空間の質を問い直すことが大切です。
本当に必要なものに、集中する
何を大切にして、何を合理化するか。その判断が、家の個性をつくります。全部を均等に揃えた家より、価値のある場所に集中した家の方が、毎日の暮らしの中で豊かさを感じられます。
設計の相談を受けるとき、どんな暮らしがしたいか、をまず聞くようにしています。予算の話は、その後です。何を大切にするかが決まれば、何を省くかも自然に見えてきます。
食事の時間を大切にしたい家なら、ダイニングの光と素材に集中する。外の景色や庭を楽しみたいなら、外とのつながりに集中する。子どもと過ごす時間を中心にしたい家なら、家族が自然に集まる場所に集中する。それぞれ答えは異なります。だからこそ、何を省くかを考えることが大切です。
そぎ落とした先に、その家らしさが現れます。