エーロ・サーリネン設計「MITチャペル」を訪れてきました。前回訪れた時は改修工事中で内部を見学する事が出来ませんでした。という訳で今回、はじめて内部空間を体験をしてきました。
こちらの建物は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のキャンパス内に位置しています。キャンパスに入ると、鮮やかな緑色の芝生と緑の木々の先に赤茶色の円筒形の外観が見えてきます。赤茶色のレンガで覆われた素っ気ない外観は、キャンパスの風景に溶け込んでいて、目を凝らしていないと見過ごして通り過ぎてしまいそうです。
礼拝堂には直接入る事が出来ず、礼拝堂から飛び出したガラス張りのエントランススペースから礼拝堂へとアプローチすることになります。円筒形の礼拝堂の周りには池が配置されており、キャンパスと礼拝堂を隔てています。池の上に掛かったエントランススペースは橋のように、こちらの世界と礼拝堂内を繋ぐ役目を果たしています。
重厚な木製扉を開け、エントランススペースに入ると通路の両側の透明ステンドガラスが目に入ってきます。それぞれのステンドガラスは、微妙にテクスチャと色調が変えてあり、霞がかかった様に外部の緑や風景を遮っています。ガラスを透過した色調の異なる多様な光は静かに室内を満たしています。
テクスチャの入ったガラスを通して外を見ると、像が歪んで見えます。その像が印象派の絵画のようで、とても美しい。まるで別の世界から外界を見てるような気分になります。(上の写真は、写真を加工したものではありません。撮った写真のままですが、まるで絵画のように見えます。)
池の上に掛けられた橋状のエントランススペースを抜け、いよいよ礼拝堂内部へと入っていきます。真っ暗な礼拝堂の正面に、光の柱が見えてきます。祭壇の上部から落ちる静寂な光。天窓から落ちる光は、ハリー・ベルトイアがデザインしたワイヤーアートに当たり、まるで天使の羽が天から落ちてくるよう。その美しさに息をのみます。
次第に暗さに目が慣れ、周囲がぼんやりと見えてきます。建物内部の壁は、祭壇から後方へとひだ状に波打っている事がわかります。(後方へいくに従って湾曲する波長が大きく変化していきます。)また、波打つ壁の下部スリットからは、外部の池に反射した陽の光が揺らぐように入ってきます。
平面図を見る限り、何故内側の壁が波打っているのか、想像できなかったのですが、実際にこの場所に立ってみて設計者の意図が何と無く分かりました。ただの円筒形の壁では、天から落ちてくる弱い光を受け止めることができないと考えたのでしょう。壁が波打っていれば弱い光でも、出っ張った部分には光が当たり、凹んだ部分には影が出来る。そう考えてひだ状の内壁としたのではないでしょうか。
上部から落ちる光は、雲の流れや太陽の動きに応じて、刻々と変化していきます。様々な角度を向けて取り付けられたワイヤーアートの反射板は、外部の光の変化だけでなく、堂内の座る場所によって、光の強さを変え、時には赤く、時には青く色調を変えていきます。同じ堂内、同じ時間でありながら、それぞれの人が異なる体験ができるという、とても面白い趣向があります。
設計者エーロ・サーリネンは、この建築(壁や屋根)を作る事を目的としたのではなく、建築を手段と考え、静寂な光を感じさせることをただ一つの目的としたのではないか、と感じました。あくまで光が主役、建築は脇役と考えて。(主役を引き立てる名脇役ではありますが。)
この空間に佇んでいると、自分がキャンパス内の華やかな場所にいる事を忘れてしまいます。もし皆さんが見学に訪れるなら、出来るだけ朝の早い時間に見学する事をお勧めします。照明でなく、ぜひ自然光でこの空間を体験してもらえればと思います。
MIT Chapel
竣工:1955年
住所:48 Massachusetts Ave,Cambridge, MA 02139,アメリカ合衆国
開館時間:7:00-23:00
イベント等が行われていなければ自由に見学が可能です。
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