伝統的大工技術 板描きと墨付けと手刻み

「上越高田の平屋」現場作業、進行中です。今日は大工さんの加工場へ打合せにいってきました。近年、柱梁や垂木などの構造材の加工はプレカット工場と呼ばれる機械加工工場で加工をするプレカット加工が主流となっています。パソコン上で図面を作成すれば、その図面を加工機が読み取り、オートメーションで機械加工してくれるものです。工期短縮とコストダウンが可能になるため、2015年のいま現在、国内9割の木造加工は、このプレカット加工によって行なわれています。

今回の上越高田の平屋は、勾配屋根+角度のついた平面ということで、複雑な取り合いがあり、プレカット機械では加工できない部分がありました。今回施工をお願いした久保田建築さんはプレカットを使わず、昔ながらの伝統的な大工技術で加工を行なっている数少ない工務店です。

板描き(板に墨で書く寸法押さえ図面)を基に、柱梁一本一本に墨付けを行い(加工形状を墨で直接材料に書き込む作業)、手刻み(てきざみ)と呼ばれる手作業で加工を行なっていきます。

下の写真が手刻みした加工部分です。梁と梁、柱と梁が取合う接合部分は、片方を凹型に、もう片方を凸型に加工して、噛み合わせて接合します。凹凸が互いにぴたっと嚙み合うことで、粘りがある強固な接合部が実現します。(現在では、この接合部が抜けないよう、更に金物で補強を行います)

3次元的に複雑な角度で納まる部分の加工には高い加工技能が必要となってきます。が、大工さんは「さしがね」だけで簡単に墨付けを行なっていきます。見ているこちらがどうやっているのだろうと、不思議に思うほどです。

複雑な角度で取合う部分は、原寸大の架構模型を作って納まりを検証しています。このような見えない積み重ねが、より確実な施工を保証しているのだと感じました。

年々、伝統工法の比率が減っている現状を考えると、数年後には、このような伝統的な大工技術を見ることが出来なくなる可能性があります。高度な技術が求められる建物が減少し、それに伴い、高度な技術を持った大工さんが減っていく。安くて早くできる工法が時代に求められることで、時間と手間の掛かる工法が消えていく。

この技術伝承が無くなった後では、もう後戻りすることはできません。このような高い伝統技術を残していくためには設計者自らが、伝統技術を理解し、広めていく使命を追っているのだと思います。

手刻み加工が終われば、現場へ材料を搬入して、いよいよ建て方です。年末の竣工へ向け、急ピッチで工事が進んでいきます。