吉村順三設計「軽井沢の山荘」を訪れて

吉村順三設計「軽井沢の山荘」へ。学生時代から建築雑誌などで良く目にしていた、樹々の中に佇むあの詩的な建物を訪れる。道路から少し勾配のついたアプローチを登っていくと、色づいた木立の隙間から、すくっと意志を持つように立ち上がっている姿が見えてくる。ひと回り小さなコンクリートのボックスの上に、片流れ屋根の木造の建物が跳ね出すように載っている。凛とした佇まい。

聞こえてくるのは、鳥の鳴き声と風の音だけ。軒下のような跳ね出しの下の空間には、朝の光が差し込んでいる。暖炉の火を焚きながら、この場所でぼーっとしていたらどんなに気持ちのよいことだろう。2階大窓の目前には、紅葉したモミジの葉。手が届きそうなくらいだ。2階のリビングから見る山の風景は、また格別に違いない。家の中に居ることを忘れ、まるで森の中に佇んでいるかのような開放感。囲まれる安心感と、樹上の浮遊感。その相反する感覚を同時に満たす空間。きっとこの山荘の中では、そのような空間が実現しているのだろう。樹上の住まい。まるで巣の中から外を覗くような。鳥の視点。

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