ミース・ファン・デル・ローエ設計「イリノイ工科大学クラウンホール」を訪れて

クラウンホール外観

シカゴ大学を離れ、イリノイ工科大学へ。シカゴ大学からイリノイ工科大学までは、バスに乗って約30分と近い。

キャンパス内は、グリッド軸に沿って街路がきれいに整備され、植栽が規律正しく並び、やや硬質な印象を受けます。動的というよりは、静的な印象を受けるキャンパス空間。キャンパスのマスタープランに関わったミースの規律正しい性格が、そのまま反映されているかのよう。

イリノイ工科大学のキャンパス内には、ミースが設計した建物が22棟存在していますが、その中でも、私が最もミースらしいと感じている建物はやはり「クラウンホール」です。

緑の芝生の上を歩いていくと、緑の樹々の間に、黒い外観が現れてきます。緑と黒のコントラストがとても美しい。都市の中で見るミースの建物とはずいぶんと印象が異なります。都市の無機質な環境の中にあるよりも、このような豊かな自然の中にある方が、ミースの建物はより映えるようです。

ファンズワース邸と同時期に設計されたということもあり、室内空間の質がどことなく似ています。床スラブを地面から持ち上げ、その床を支える柱を内部空間ではなく外部へ配置し、室内には柱の全くない、ユニバーサルな(=均質で自由な)空間が実現しています。このあっけらかんとした室内の雰囲気。とてもミース風な感じです。

ただし、ファンズワース邸と異なるのは、そのスケールです。66m×36m×高さ5.5mという大空間を、8本の柱と4本の大梁だけで実現しています。人間の尺度を大きく逸脱し、まさにクラウン=王という名に相応しく、堂々と佇んでいます。

クラウンホール内部空間

地面から少し持ち上げられたホール内部へと入ると、ワンルームの大空間が広がっています。こちらの建物は、建築学科の施設として使用されており、大空間のそこかしこで授業が行われています。ユニバーサルスペースというだけあって、あちら側では講師の講義が、こちら側では模型製作が、と場所ごとに異なる活動が行われています。

各クラスは、衝立のような間仕切り壁で仕切られているものの、衝立の上部はオープンになっており、一つの大きな空間であることが視覚的に感じられるようになっています。各クラスで行われてる授業の声は、ホール天井に反射してホール内に響き、大空間らしい残響があります。遠く離れた場所にいても、互いのクラスの気配を感じることのできる、繋がりつつ、離れた空間が実現していました。

クラウンホール内部空間02

外壁面は全てガラス面で構成されていますが、上半分は透明ガラス、下半分は磨りガラスとなっています。上部からは、緑の葉の隙間から木漏れ陽が差し込み、下部には樹々の影が映り、風に揺れています。このガラスの効果によるものか、開放的でありながら、囲まれた安心感ある空間となっていました。

クラウンホール内部空間03

ホールの中央付近には、下階へ降りる階段が設けられています。開放的なホールとは一転、下階には閉鎖的な落ち着いた空間が広がっています。地階には、ラウンジロビーや図書館、研究室、トイレなどの諸室が半地下となって納められ、天井付近に設けられたハイサイド窓から柔らかな光が差し込んでいます。

クラウンホール下階

とは言え、上階のホールと比べると、下階には雑多な印象があることは否めません。研究室やトイレの辺りの天井には、無造作に配管やダクトが露出されており、洗練されているとは言い難い。まあ、上階をできる限りシンプルな空間にしようと思えば、その分、下階に配管などの裏方が集中してしまうのは仕方のないことかもしれませんが。

クラウンホール下階02

最後に再び外観に戻ります。クラウンホールのエントランス階段は、浮いているような見え方をしているので、建物本体も軽やかに浮いているものと勘違いしていましたが、よくよく見てみると、地面に唐突に置かれたような、無造作な納まりとなっています。この独特の造形感覚がミース的といえば、その通りではあるのですが。

クラウンホールエントランス階段

S.R.Crown Hall (IIT College of Architecture)
住所:3360 S State St, Chicago, IL 60616 アメリカ合衆国
参考web:https://arch.iit.edu/about/buildings
開館時間などはHPで直接確認ください。