「神奈川県立音楽堂」に続いて隣に建つ「神奈川県立図書館」へ。こちらの建物も隣と同様、前川國男の設計になります。渡り廊下で繋がった2つの建物。デザイン的には同じトーンで仕上げられているものの、その建物に求められた性質からか、音楽堂は開放的、図書館は閉鎖的と、両者は対照的な表情をしています。
図書館の外壁は、穴あきテラコッタブロックを積んで仕上げられてます。この穴あきブロック、ただの表層的なデザイン要素ではなく、きちんとした機能を持っています。直接光が室内に入るのを遮断し、ブロックの穴に反射した柔らかい光だけを室内へ導いているのです。内部へ入ると、安定した量の光が閲覧室内を満たしています。中央の閲覧室には吹き抜けが設けられ、北側は全面ガラス張りとなっています。他の穴あきブロック壁と同様に、こちらも直接光が室内に差し込まないよう、縦格子状のコンクリート壁が並び、柔らかな光で空間が満たされています。縦格子の間からは庭の樹々が見えています。
建物の中を見て回るうちに、設計者は表層的なデザイン以上に、その空間に求められた環境(というか空間の質)を実現することを目指したのではないか、とふと思い至りました。読書をするのに最適な光量、最適な静寂さ、人間同士の最適な位置、そんな場を作り出すこと。至極当たり前ことかもしれませんが、そのような本質的視点がこの空間を作り出しているように感じました。前川國男という人間の美学が感じられる空間とでもいうか。そう考えれば隣に建つ音楽堂も、音楽を鑑賞するための最適な音響、最適な人間配置など、環境を最適化することにすべての重心が置かれていることが理解できます。
設計者の前川國男は、スタッフから「大将」と呼ばれるような愛すべきキャラクターを持つ人物だったそうです。この2つの建物からは設計者、前川國男のその人柄からにじみでる温かさを感じることができるはずです。