
建築費の高騰や住宅ローン金利の上昇が続く今、「予算を抑えながらも、耐震・断熱性能に優れ、かつ美しい家に住みたい」と願うのは、決してわがままなことではありません。性能や美しさは、建築費に単純に比例するものではなく、設計アイディア次第でいくらでも引き上げることが可能です。
私の事務所では、限られた予算の中で豊かな住まいを実現するために、主に2つの柱を軸に設計を行っています。
- コストのメリハリ:見えない場所のコストを徹底的に削り、家族が長く過ごす場所に予算を集中させる
- 空間構成による付加価値:面積(数字)を広げるのではなく、設計の工夫で心理的な「広がり」を創り出す
本記事では、当事務所が実際に取り組んでいる、性能と美しさをキープしながらコストを賢く抑える独自の設計手法を具体的に紹介します。
見えない場所を削り、メインの空間へ予算を集中する

来客者の目に触れない場所のコストを徹底的に抑えることで予算を捻出し、その捻出した予算をリビングなどの主要な部屋へ振り替えて見栄えを良くする方法です。
パントリー、クローゼット、ランドリー、納戸などの収納エリアでは、仕上げを行わず下地材のままとすることもあります。収納エリアに物が収まってしまえば、壁や床などは全く見えなくなってしまいますので、仕上げ材自体が不要と考えることができます。
構造用合板、パーティクルボードなどの下地材をそのまま仕上げ材として使用することで、コストを大幅に削減することができます。
上の写真は、私の設計した住宅の納戸です。床はラーチ合板、壁は構造用合板(スタンプ付きのまま)、白い壁と天井は塗装下地用クロスと全てローコストな下地材で作っています。
平面や空調方式を工夫して設備費を抑える

個別の高価な設備機器を多数導入するのではなく、建物の断熱性能を高め、平面構成や空調方式を工夫することで、設備工事費を抑えます。また、設備を最小限に抑えることは、メンテナンスの負担を減らし、暮らしをより自由にします。
床、壁、天井に断熱材をできる限り充填し、家全体の断熱性能を高めることで、必要な冷暖房設備の台数が削減できます。高断熱な住宅であれば、エアコン一台で冷暖房することも可能になります。また、ワンルームに近い平面構成をとることができるなら、各部屋に一台づつエアコンを設置する必要がありませんので、同様に設置台数を減らすことができます。
エアコンが4台必要な家と、エアコンが1台で済む家では、エアコン設備の設置工事費が大きく異なります。
断熱性能を高め、少ないエアコン台数で家中を快適にする設計は、家計に優しいだけでなく、「家のどこにいても温度差がない」という快適性を作り出します。
冬場にエアコンの温風を床下に吹き出し、コンクリートを蓄熱材として使いながら床のルーバーから暖気を出す空調方式を採用するのも有効です。シンプルなシステムで、高価な床暖房設備を入れずとも同様の暖かさが実現できます。
「場のバリエーション」を増やす設計

空間の広さに頼らずとも、設計上の工夫で数字以上の心理的な広がりを創り出します。予算のために面積を絞ることは、空間に「ドラマチックな変化」を与えるチャンスとポジティブに捉えましょう。
明るい空間と暗い空間、天井の高い場所と低い場所、開放的な場所と籠り感のある場所、など対比的な場を設けることで、変化ある空間を作り出します。さまざまな場があることが、精神的なゆとりと空間の豊かさを生み出します。
具体的な方法としては、玄関や通路をあえて「暗く、低く」設計することで、その先に広がるLDKの開放感を最大化することができます。この光と影、高低差のメリハリは、すべての部屋が均一に広い家では決して味わえない「空間変化」を生み出します。
床レベルを変えるスキップフロアを採用することで高さ方向の変化をつけたり、壁を雁行させることで空間の奥行きを強調したり、視線の抜けを利用して空間の連続性を確保したり、さまざまな設計上のアイディアがあります。
小さな家だからこそ、視線が抜ける工夫やスキップフロアなどの仕掛けが活きてきます。移動するたびに景色が変わり、多くの居心地の良い居場所が見つかる設計は、住む人に数字上の広さを超えた深い充足感をもたらします。
下地材を使ってユニークな空間を作り出す

豪華な素材に頼らずとも、表情豊かな素材を利用し、空間を演出することができます。
私の事務所では、構造用合板やフレキシブルボードなどの下地材を仕上げに使うことが良くあります。下地材であれば、大幅なコストダウンを図ることができます。上の写真は、木毛セメント板で仕上げた壁です。木毛セメント板は、体育館の天井下地材として使われる耐火ボードです。
通常は隠してしまう下地材をあえて表に出すことで、飾らない美しさと個性が生まれます。「安く済ませるために壁紙を貼らない」のではなく、「素材そのものが持つ力強い表情を愉しむ」ユニークで遊び心のある空間へと生まれ変わります。
豪華な仕上げ材に頼らずとも、多様な素材を組み合わせることで、コストを抑えながらも、唯一無二の個性的な空間を作り出すことができます。
収納は「一か所にまとめる」

さまざまな場所に適切に収納を設けることは、とても使い勝手が良いのですが、場所ごとに棚や扉などの造作工事が必要となり、工事費を押し上げてしまいます。
私の事務所でよく提案することとしては、部屋ごとに収納を設けず、大きな納戸をまとめて一か所に設けて、そこにすべての衣類や物を収納しておく方法です。納戸が一か所(または数か所)で済むので、造作工事が減り、コストダウンへと繋がります。
収納を大きな納戸に一括管理する手法は、造作コストを抑えるだけでなく、家事動線をシンプルにし、暮らしに整然とした美しさをもたらします。
建物の高さを「低く」抑え、材料費を削減する

建物の高さを数センチ抑えるだけでも、家全体を包む外壁材や断熱材、内装材の総量が大幅に減ります。無駄な空間(天井裏など)を削ぎ落とすことが、もっとも直接的なコストダウンにつながるのです。
天井裏などの使わないスペースをなるべく減らし、屋根形状に沿った空間設計や合理的な断面構成を意識することで、建物高さを低く抑えることができます。
最後に
家づくりをめぐる今の状況は、決して楽なものではありません。建築費の高騰や金利の上昇といった現実に、理想の住まいを諦めそうになっている方も多いのではないでしょうか。
しかし、家づくりにおいて最も大切なのは、面積という「数字」や豪華な素材という「体裁」ではなく、その空間で「どんなに豊かな時間を過ごせるか」ということです。
たとえ予算に限度があったとしても、設計アイディアがあれば、それは「制限」ではなく、その家だけの「個性」へと変わります。さまざまなアイディアの積み重ねこそが、住まう人の精神的なゆとりと、数字以上の広がり、そして空間の豊かさを生み出します。
建築費を抑えるための工夫は、結果として「無駄を削ぎ落とした本質的な美しさ」を際立たせます。
予算の制約を前向きに捉えることで、住まいはもっと自由で、もっと魅力的な場所に変わります。あなたの家づくりにおいても、これらの「工夫の跡」が、住むほどに愛着の湧く暮らしのスパイスとなるはずです。