家づくりを考え始めると、まず気になるのは間取りや外観かもしれません。けれど、実際に暮らし始めてから印象を左右するのは、壁や天井、床といった仕上げの質感です。
一般的には、下地材は仕上げ材の裏に隠れてしまいます。けれど私の事務所では、あえてその下地材を仕上げとして使うことがあります。
理由は2つあります。ひとつは、コストの合理性。もうひとつは、素材そのものが持つ素直な表情です。
余分な仕上げを重ねない。素材の素性をそのまま活かす。その姿勢が、コストを抑えながら質感のある空間をつくることにつながります。下地材をあえて見せるという選択は、そういう考え方から来ています。
既製品の仕上げ材は、整いすぎていることがあります。均一で、ムラがなく、完成された表情。それは安心感がある一方で、どこか既視感もある。下地材には、少しラフで、均質ではない質感があります。ムラや凹凸、素地のままの風合い。それらをきちんと理解し、使いどころを見極めれば、既製品にはない奥行きが生まれます。
もちろん、良いことばかりではありません。もともと仕上げ用に作られていないため、納まりや施工方法には工夫が必要です。工務店や大工と丁寧に検討しながら進めることが前提になります。けれど、その手間をかける価値はあります。収納やバックヤードのような場所に採用すれば、コストを抑えながら質感を保つことができる。空間の主役ではなくても、家全体の雰囲気を静かに支えてくれます。
こうした素材の選択は、特別な予算や条件がなくても実践できます。必要なのは、素材を見る眼と、使いどころを見極める視点です。家づくりは、足し算だけではありません。どこを整え、どこを見せるか。その判断の積み重ねが、住まいの個性をつくります。下地材は、その姿勢を映し出す素材だと感じています。
ラワン合板仕上げ
柔らかな木目の表情をもつラワン合板。一般にはベニヤ板と呼ばれる、ごく身近な素材です。丸太をかつらむきのように薄くスライスしてつくられるため、木の表情がそのまま現れています。丸太のどの場所から切り出されたかによって木目が変わり、一枚として同じものはありません。合板でありながら、素材の素性が正直に表に出るところに魅力があります。
私は寝室や書斎など、少し光を抑えて落ち着きを与えたい空間によく用います。杉板張りのような素朴な空間とは異なり、よりフラットで静かな印象の空間になる。木でありながら、どこかモダンな佇まいをつくる素材です。
合板という名称からは工業的な印象を受けるかもしれません。けれど実際には、木目の揺らぎや色の濃淡が、空間に奥行きを与えてくれる。過度に装飾せずとも、素材そのものが空間を成立させます。特別に高価な材料ではない。それでも、使いどころを見極めれば、空間の質は確かに変わる。ラワン合板は、使い手の視点が問われる素材だと感じています。
こちらの写真は、ラワン合板を天井に用いた例です。空間全体ではなく、一部にだけ使う。それによって、主張しすぎない、静かな印象をつくっています。
ラワン合板は木目の表情がはっきりと現れる素材です。面積が増えるほど、その存在感も強くなります。使いすぎれば、空間全体がウッディな方向へ引っ張られてしまいます。だからこそ、どこまで見せるかのバランスを丁寧に考える必要があります。
この事例ではラワン合板に塗装を施さず、素材そのままの柔らかな表情を活かしました。光を受けたときのわずかな色の揺らぎや、木目の陰影がそのまま空間の質になります。一方で、塗装を加えれば、より深みのある落ち着いた雰囲気にすることができます。同じ素材でも、仕上げ方によって空間の雰囲気が変わります。
ラワン合板は、決して特別な材料ではありません。けれど、扱い方次第で空間の印象を静かに方向づける力を持っています。
ラワン合板仕上げについて、詳しく記事にしていますので、こちらも併せてご覧ください。
→「ラワン合板仕上げが出来るまで」
フレキシブルボード仕上げ
写真のグレー色の壁は、フレキシブルボード仕上げ。セメントに強化繊維を混ぜ合わせ、成形した板材です。耐水性と不燃性に優れているため、コンロまわりや水まわりといった機能性が求められる場所に適しています。
セメントを主成分としているため、質感はコンクリート打放しに近い、硬質で無機的な印象があります。しかし表面にはモルタル特有のムラや濃淡が現れ、その揺らぎが素材に自然な風合いを与えます。クールでありながら、どこか有機的な表情を持つ素材です。
写真のように、空間がモノトーンで引き締まり、静かな緊張感のある佇まいになります。
少し変わった使い方として、キッチンや脱衣室の床にタイル状にカットして張ることもあります。仕上がりは、大判タイルを敷いたような端正な印象になります。
表面はさらりとしていて、素足の足ざわりも良い。硬質でありながらも、過度に冷たくはならないところが特徴です。より耐水性を高めたい場合には、オイル拭きや撥水塗料で仕上げることも可能です。
素材を固定的に捉えるのではなく、場所や使い方に合わせて活かしていく。フレキシブルボードは、そうした応用のきく仕上げ材のひとつです。
木毛セメント板仕上げ
木毛セメント板(もくもう・せめんとばん)。名前の通り、木片チップをセメントで固めて成形したボードです。一般には、体育館の天井など、耐火性能が求められる場所に貼られる素材です。耐火・吸音を目的とした下地材ですが、あえて仕上げとして表に出すこともあります。
木片チップがそのまま表層に現れ、独特の凹凸をつくる。均質ではないその表情が、光を受けるたびに陰影を生みます。時間帯や照明の当たり方によって、印象が少しずつ変わるのも魅力です。質感は硬質。けれど、内部に木を含んでいるためか、どこか温かな雰囲気が感じられます。無機と有機のあいだにあるような素材です。
見た目だけでなく、その性能も活かして採用することも有効です。写真の事例では、遮音性の高さを活かし、トイレの壁と天井に採用しました。
素材を飾るのではなく、性能と質感の両方を読み取って使う。木毛セメント板は、その姿勢をはっきりと表せる素材のひとつです。
OSB合板・ラーチ合板仕上げ
OSB合板(オーエスビー・ごうはん)は、木片チップに方向性を持たせて重ね、接着剤で圧着した構造用ボードです。表面にはチップの模様がそのまま現れ、独特のランダムな表情をつくります。本来は耐力壁など、構造強度を確保するために使われる材料。強度を持ちながら、比較的入手しやすい価格である点も特徴です。
写真の事例では、ウォークインクローゼットの壁仕上げとして採用しています。主役となる空間ではなく、収納内のように視線が集まりにくい場所に使うことが多い素材です。コストを抑えつつ、必要とされる機能をきちんと満たす。そうした判断で選んでいます。
こちら写真の収納棚で使っているのは、ラーチ合板です。こちらも構造用合板の一種で、丸太を薄くスライスした単板を重ねてつくられています。OSBがチップの重なりによるラフで力強い表情を持つのに対し、ラーチは針葉樹の素直な木目が連続して現れています。より整った印象があり、仕上げ材としても扱いやすい素材です。
ビスの効きが良く、棚板やパイプを固定しやすい。実用性を重視する収納まわりで、安心して使える材料です。
OSBもラーチも、本来は下地や構造用途のために作られたボードです。そのため表面には製造スタンプが印字されていることが多く、消す場合は研磨などの処理が必要になります。私の事務所では、収納内に使う場合はスタンプをあえて消さず、そのまま用いることもあります。なぜなら最終的には収納物で隠れてしまう部分だからです。
素材の格や用途にとらわれすぎないこと。どこに使い、どこを見せるかを見極めること。OSB合板とラーチ合板は、その判断がはっきりと表れる材料だと感じています。
塗装下地用クロス張り仕上げ
下地用クロスは、本来、塗装のための下地材としてつくられたクロスです。通常はこのクロスの上から塗料を重ねて仕上げます。けれど、あえて塗装をせず、そのまま仕上げとして用いることがあります。余計な工程を省くことで、コストを抑えるためです。
コストダウンだけを考えるなら、安価なビニルクロスを選ぶ方法もあります。ただ、ビニルクロスは表面がつるりとしていて、光の当たり方によっては質感がやや軽く見えることがある。その点、下地用クロスはざらりとした艶消しの表情を持ち、落ち着いた印象になります。また、樹脂系のにおいがほとんどないため、新建材特有の匂いが苦手な方にとっては、選択肢のひとつになります。
もともと下地用のため厚みが薄く、よく見ると石膏ボードのパテ跡がうっすらと感じられることもあります。メインの空間には使わず、たとえば収納やバックヤードなどに用いることが多い素材です。
仕上げを足すのではなく、工程を引く。下地用クロスは、その発想に素直な材料だと感じています。
下地材を仕上げ材として使用する際のポイント
これまで紹介してきた素材の多くは、本来は下地材。仕上げとして使うことを前提に作られているわけではありません。
そのため、納まりや施工方法に工夫が必要になることもあります。取り付け方や加工の仕方、将来的なメンテナンスまで含めて、工務店や大工と丁寧に検討することが欠かせません。
扱いは簡単ではない。けれど、その分だけ、既製の仕上げ材にはない表情があります。ざらつき、ムラ、素地のままの質感。整いすぎない素材の持ち味が、空間に奥行きを与えます。
下地材を使うときは、上品にまとめすぎないことも大切です。中途半端に隠そうとするよりも、素材の性格を理解し、思い切って見せる。その潔さが、空間の魅力につながります。
素材は単体で完結するものではありません。取り合わせや組み合わせによって、表現の幅はさらに広がります。既成のイメージにとらわれず、素材の素性を読み取りながら、自由に扱うこと。下地材は、その姿勢を試される素材だと感じています。
素材の選択は、設計の姿勢を映します。何を使うかより、なぜ使うか。その問いを持ち続けることが、空間の質につながると考えています。この記事が、家づくりを考えるうえでの参考になれば幸いです。