築30年住宅の断熱性を高める実践法

壁断熱

ここでは築30年超の中古木造住宅を購入し、断熱改修リノベーションを行った実例を紹介します。

こちらの住宅は30年以上前に建てられた住宅ですので、近年の建物と比較すると、耐震性・断熱性とも劣っていました。リノベーションに際して、見た目だけの美しさや機能性だけを回復しても、夏熱く、冬寒いのでは、気持ちよく過ごすことは出来ません。仕上げ材に隠れて見えないところではありますが、きちんと断熱改修を行って断熱性能を上げることで、ほんとうに快適な暮らしが実現できます。

内装を全面解体して確実性を確保する

断熱工事を行うに際して、まずは解体工事からスタートします。断熱材は、壁や天井や床の中に充填してあるので、仕上げ材を解体しなければ断熱材の交換ができません。全面的な断熱改修を行う場合、すべての仕上げ材を解体しなければならず、解体費が嵩んでしまいますので、解体費を多めに見んでおくことが必要です。

築30年超の中古住宅の場合、断熱材の性能自体が低いだけでなく、壁や天井の内部に劣化や隙間、断熱欠損などが生じている可能性が高く、解体を伴なわない部分的な改修ではそれらの隠れた問題を発見し、修正できないリスクがあります。また、全面解体を選択することで、断熱材を隙間なく充填できるなど、耐震補強工事も含めて、施工の確実性を高めることができます。

改修費用が掛かってしまうのですが、将来的な快適性の担保と建物の寿命を延ばすことを目標とし、今計画では全面的な解体を行うことを選択しました。

壁解体

壁の中には、建設当時の茶色い袋状の断熱材が入っているのが見えます。劣化はそれほど進んでなく、ある程度の断熱性能があるのでこのまま残しても良いのですが、今回は大幅に断熱性能を上げるために、すべて撤去して新たな断熱材に入れ替えることにしました。

天井解体

解体した天井の上に見えている茶色い物体が当時の断熱材です。断熱材が入っていることはいるのですが、断熱材の性能自体が低く、お世辞にも性能は高いとは言えません。こちらの当時の天井断熱材は撤去し、新しい断熱材に交換していきます。

また壁や床との取り合い部に通気止め(きりゅうどめ)がされていないため、新たに気流止めを施工することが必要です。

内装材解体後

天井、壁、床仕上げ材の解体・撤去が全て終わりました。柱・梁だけの骨組みだけとなった状態から、新たに断熱材を入れ、内装仕上げを行っていきます。建物全面を断熱する場合、このように内装工事をすべて初めから行うことになります。工事費がそれなりに掛かってしまうのですが、以前の状態を残さず、新に工事を行うので施工性を上げることができ、断熱性能の確実性が増します。(同様に耐震補強工事の確実性もアップします。)

足元からの寒さ対策

床断熱

1階床下全面に断熱材を敷き込んでいきます。木造住宅でもっとも寒さを感じる場所は、足裏が直接触れる1階床です。体感寒さを緩和するため床下断熱材に断熱性能の高い、厚さ120ミリのグラスウールを採用しました。グラスウールとは、ガラス繊維でできた、コストパフォーマンスに優れた断熱材です。

床下断熱材

こちらの断熱材の熱抵抗値は3.4㎡・K/Wです。「熱抵抗値」とは、「どれだけ熱が伝わりにくいか」を示す数値です。この数値が高ければ高いほど、家の中の熱が外に逃げにくく、高性能な断熱材であることを意味します。

現行の省エネルギー基準(省エネ基準)で定められている一般的なレベル「断熱等級4」の床下の熱抵抗値(2.2㎡・K/W)を大きく上回りますので、一般的なレベルよりも遥かに高い快適性を実現しています。

床下断熱

床の解体ができない床の間の下などは、大工さんが床下に潜り込んで、床下から断熱材を嵌め込んでいきます。床下に潜っての作業は、作業スペースが非常に狭く、断熱材を隅々まで隙間なく、はめ込むことが困難です。わずかな隙間や充填不足(施工精度が低い状態)があるだけで、せっかく高性能な断熱材(熱抵抗値3.4㎡・K/W)を採用したとしても、熱は隙間から逃げてしまいます。

近年、床下から施工可能といった断熱製品も販売されていますが、施工性の難易度から施工費が割高になる傾向があります。また、狭い床下からの作業で施工精度を上げることは難しいため、私の事務所では一部の場合を除いて採用することは控えています。

ヒートショックを防ぐ

浴室床断熱

浴室は特にヒートショックが発生しやすい場所ですので、浴室下にも忘れずに断熱材を施工します。浴室下の断熱には、水分の影響を受けにくい(湿気を吸いにくい)スタイロフォームのような耐水性の高い断熱材を選ぶ必要があります。(スタイロフォームは、水に強く、特に浴室などの湿気の多い場所に適した板状の断熱材です。)

断熱性能だけでなく、「設置する場所の環境」(湿気、狭さなど)に応じ、断熱材を使い分けることこそ、断熱性能を長期にわたり維持するための重要な実践法です。ただ単に高性能な断熱材を採用するだけでなく、適材適所で断熱材を使い分けることが大切です。

外壁断熱と断熱性能を維持する気流止め

壁断熱

床に続いて、外壁に断熱材を入れていきます。外壁には、厚さ120ミリグラスウールを充填しました。こちらの熱抵抗値は3.3㎡・K/Wです。一般的な断熱等級4の外壁に必要な熱抵抗値は2.2㎡・K/Wですので、1.5倍の断熱性がある製品を採用しています。サッシ周りの隙間などは欠損がないよう、細かく裂いた断熱材を詰め込んでいきます。細かな作業ですが、この小さな積み上げが快適性を上げてていきます。上の写真では、施主さんも参加してお手伝い中。

気流止め

隙間の多い中古住宅では、断熱性能だけでなく、気流止め(きりゅうどめ)の確保が重要です。「気流止め」とは、壁や床の内部で空気(気流)が動くのを防ぐための工事です。もし気流止めがないと、断熱材の裏側を冷たい空気が通り抜けてしまい、せっかく入れた断熱材の性能が低下してしまいます(ちょうど、マフラーのように巻いた断熱材の横から風が入るイメージです)。

床と壁が接する角や天井と壁が接する角には、気流止めを設置して断熱材の性能が十分に発揮できるように対処を行います。上の写真では、床から壁にそって空気が通り抜けないよう、壁の下部に木製の気流止めを施工しています。

天井断熱には厚めの材料を

天井断熱

最後に天井の断熱工事です。床、壁、天井と空間をぐるり4面とも断熱材で囲うことで断熱が完成します。天井には、厚さ200ミリの厚めのグラスウール断熱材を施工しました。(写真は施工作業の最中です。脚立上の断熱材を天井裏へ敷き込んでいきます)こちらも他の部分と同様に熱抵抗値5.7㎡・K/Wと、かなり高めの断熱性能のある製品を採用しています。

断熱材を施工する大工さんの手間代は、断熱材が厚くとも、薄くとも一緒です。であれば、断熱材の差額のみで、施工ができるということですので、厚めの断熱材を施工する方がお得です。

今回、断熱材として採用したのは、大部分がグラスウール断熱材です。グラスウール断熱材は、断熱性能に対する材料単価が最も安く、日本全国どこでも手に入るため、工事費を抑えるには有効な選択肢となります。

確実な断熱改修がもたらす快適な暮らし

断熱改修後

この実例でご紹介したように、築30年超の中古住宅であっても、仕上げ材に隠れて見えない断熱部分にきちんと手を加えることで、ほんとうに快適な暮らしが実現できます。見た目の美しさや機能性だけを回復しても、「夏熱く、冬寒い」という根本的な問題は解決できません。

今回は、壁、天井、床の仕上げ材をすべて解体し、高性能なグラスウール断熱材などを採用することで、一般的な断熱等級4の性能基準を大きく上回る断熱性を確実に確保しました。特に、断熱材を隙間なく充填し、気流止めを確保するといった細かな作業の積み重ねが、快適性を高める上で非常に重要です。

今回の工事では既存の状態を残さず、すべて解体し、新たに内装工事を行うことで施工性を上げ、断熱性能や耐震補強工事の確実性を高めることを目標としました。