台北中心部より電車で北へ30分、更にバスに乗り換え、計1時間。ゆうゆうと流れる淡水河畔、牧歌的な町並みが広がります。台北市街地とは異なり、ここでは少し時間がゆっくり流れているようです。今回の旅の目的は1967年竣工、丹下健三設計による「台北聖心女子大学」です。
淡水河を見下ろす丘の上に建ち、丘の起伏を利用した空間構成が特徴。平面は、一筆描きのように丘の上をクネクネと這うように折れ曲がりながら、奥へ奥へと続いています。円筒状の垂直コアとそれに架け渡した水平スラブ(床)によって構成されています。同時期に設計された「山梨文化会館」や「静岡新聞・静岡放送東京支社ビル」などの建物と同様の造り。が、他の建物と異なるのは、円筒状コアがランダムに配置されており、より動きのある平面空間が生まれていること。
雑誌で見ていたランダムな平面は、ちょっとデザインが過剰すぎるのではないか、と思ってましたが、実際にここを訪れて感じたのは、不条理さが一切ないということでした。丘のアップダウン、緑の樹々と相まって、このランダム平面がとても自然に感じられました。この環境で、真っすぐな平面を配置したのでは逆に、周囲から対立し、浮き立ってしまったでしょう。流石、丹下と脱帽しました。このような敷地の質の読み取りを丹下健三がしていたかどうかは、私の想像でしかありませんが。
建物内には、そこかしこにベンチや空間溜まりが用意されており、学生達は思い思いに腰をかけ、本を読んだり、話をしたりしています。建物のスケールが大きい割に、細部の作り込みはヒューマンスケールで、居心地の良さを感じます。各所の曲面ディテールや、外壁仕上げのざらっとした表情のテラゾー(人造研ぎ出し)が、一役買っているのかもしれません。
日本国内で見る丹下健三の建物とは少し異なる優しい空間が生まれているように感じました。それは、台北の気候や風土が作り出したのかもしれませんね。
台北聖心女中学校
住所:新北市八里區龍米路一段263號
電話:
※見学に関しては施設へ直接問い合わせください。
私が訪れた際は、警備員室から担当者に許可を得て特別に見学させてもらいました。