
中古住宅を探している方から、購入前の相談を受けることがあります。
この家で、思い描いている暮らしができるのだろうか。相談に来られる方の多くは、そこが分からずにいます。
思い描いている暮らしには、いろいろなことが含まれます。デザイン、使い勝手、断熱や耐震の性能、そして費用。一つずつなら、答えられることもあります。間取りは変えられるか。断熱はできるか。工事にいくらかかるか。
けれど、どれかを優先すれば、ほかのどれかに響きます。壁を取り払って広くすれば、耐震の補強が要ります。断熱をしっかりすれば、費用が上がります。それらが、この家で、予算の中で両立するのか。それが分からないのです。
買ってしまった後では、物件を選び直すことはできません。直せることには限りがあり、予算の多くも、すでに購入に使っています。だから、買う前に確かめておくことには意味があります。
ただ、物件だけを見ていても、判断はできません。良い家かどうかは、建物だけでは決まらないからです。
では、買う前に、何を物差しにして判断すればよいのでしょうか。
物件を見る前に、物差しを二つつくる
物件の話を伺う前に、まずお聞きしていることがあります。
良い家かどうかは、そこに住む人の暮らし方や価値観が分からなければ、判断できません。ある人にとって心地よい家が、別の人にとってもそうだとは限らないからです。
そこで、最初のヒアリングの前に、いくつかの質問をお送りして、答えていただいています。聞くことは、大きく二つに分けています。
一つは、予算のことです。物件の購入費だけでなく、工事費や設計料、予備費までを合わせた総事業費を、どのくらいで考えているか。それに、広さや間取りについての簡単な要望。こうした具体的なことは、メールで伺います。
もう一つは、暮らしのことです。こちらは最近、一枚のシートにまとめて、記入していただく形を試しています。シートで尋ねているのは、「どんな家が欲しいか」ではなく、「どんな時に心地よいと感じるか」です。子供の頃に好きだった場所や、理想の休日の過ごし方といった質問が並んでいます。
暮らしの物差しと、予算の物差し。この二つがそろって、初めて物件に当てることができます。暮らしだけでは、その家で実現できるかが分かりません。予算だけでは、その家がその人にとって良い家かどうかが分かりません。
予算の物差し
メールで伺う
- 総事業費をどのくらいで考えているか
購入費・工事費・設計料・予備費 - 広さや間取りについての簡単な要望
暮らしの物差し
シートに記入していただく
- どんな時に心地よいと感じるか
- 子供の頃に好きだった場所
- 理想の休日の過ごし方
物件情報で見通し、現地で確かめる
二つの物差しができたら、物件に当ててみます。進め方は、二段に分けています。
一段目は、物件情報で見通すことです。間取り図や写真、築年数といった情報を、伺った予算や要望と照らし合わせて、その家で思い描く暮らしが実現できそうかを、メールでお伝えします。
物件情報からも、分かることはあります。築年数が分かれば、いまの耐震基準ができる前か後かが分かり、補強にかかる費用もある程度見込めます。けれど、建物がどれだけ傷んでいるかは、写真や図面だけでは分かりません。
二段目は、現地で確かめることです。購入を考える段階になったら、内見に同行して、建物の状態を自分の目で見ます。そのうえで、状態に応じて、予備費の割合を見直します。
ただ、購入の手続きが終わるまでは、基本的に建物の中を詳しく調べることはできません。壁の中や床下には、見えないところが残ります。分からないところは、分からないものとして、予算の中に見込んでおきます。
予算が決まっていれば、概算の資金計画も立ててみます。物件の価格に、工事費や設計料、予備費を加えて、総事業費として収まるかどうか。月々のローンの返済額の目安も出します。ただ、細かな条件が決まっていない段階では、変わる要素が多いので、あくまで目安です。それでも、思い描く暮らしが実現できそうかを、数字でも確かめておくことができます。
同じ物差しで、候補を比べる
候補の物件が、いくつかあることもあります。その場合は、同時に検討して比べます。
物件を探していると、どうしても価格や築年数、広さ、立地で比べることになります。どれも大切な条件で、物件情報を見れば、誰でも比べることができます。
けれど、それだけでは、どの家がその人に合っているかは分かりません。私が比べているのは、同じ暮らしの物差しと予算の物差しを、それぞれの物件に当てたときの結果です。
たとえば、価格が安い物件でも、思い描く暮らしに近づけるために手を入れる範囲が広ければ、総事業費は大きくなります。反対に、価格が少し高くても、そのまま活かせるところが多ければ、全体では予算に収まることもあります。
同じ物差しで並べてみると、その人に向いている家と、そうでない家が見えてきます。
物差しに合わない家もある
物差しを当ててみると、思い描く暮らしが実現しにくいと分かる家もあります。これまでの相談から、いくつか例を挙げます。
一つは、総事業費の中で、物件の購入費が大きな割合を占めてしまう場合です。物件の価格だけを見れば手が届いても、工事に回せる費用が足りなくなります。耐震や断熱に手を入れたくても、それができません。事業のバランスが悪い、という判断になります。
二つ目は、建物が、望む暮らしに比べて大きすぎる場合です。広い家は魅力的に見えます。けれど、広ければそれだけ、手を入れる範囲も広がります。家全体に手を入れる予算が取れなくなることがあります。
三つ目は、法的な対応が難しい場合です。たとえば、防火の規制がかかる地域では、改修の内容によって、窓を防火の基準に合ったものにする必要が出てきます。いまの窓がそうでなければ、すべて交換することになり、費用も工事の範囲も大きく変わります。
見送る理由は、ほかにもさまざまです。物件ごとに、暮らしごとに違います。ただ、どれも建物そのものが悪いわけではありません。たまたま、その人の暮らしと予算には合わなかった、ということで、別の人にとっては、良い家かもしれません。
こうした場合は、難しい理由をお伝えします。最終的に見送ると決められたのは、住まい手ご自身です。
決めるのは、住まい手
物差しをつくる
予算はメールで
暮らしはシートで
物件情報で見通す
図面や築年数から
メールで伝える
現地で確かめる
内見に同行し
予備費を見直す
候補を比べる
複数あれば
同じ物差しで
住まい手が決める
買うか、見送るか
物差しを当てて、比べて、見通しをお伝えする。買う前の相談で私がお手伝いできるのは、そこまでです。その家を買うかどうかを決めるのは、住まい手ご自身です。
お渡しするのは、判断のための材料です。暮らしと予算の物差しに照らして、この家なら何ができそうか、何が難しそうか。それが分かっていれば、納得して選ぶことができます。
購入を決めたあと、その家で暮らしを具体的な形にしていくのは、その先の設計の段階です。
どこまで確かめるかは、検討の段階や物件の数によって変わります。最初のご相談で状況を伺い、合った進め方をご提案しています。