なぜリノベーションでは、解体後にもう一度設計するのか

リノベーションを考えている方から、よく聞く不安の一つがあります。

「解体してみたら、次々と問題が見つかって、工事費がどんどん増えるのではないか」というものです。確かに、リノベーションでは、壁や天井、床を解体して初めて分かることがあります。

柱や梁がどこに入っているのか。
筋交いはどこに、どのように入っているのか。
接合部はどんな状態なのか。
床や天井の中が、どのようにつくられているのか。

図面が残っていない住宅では、なおさらです。

そのため、解体後に追加工事が必要になる可能性を、完全になくすことはできません。ただ、だからといって、解体後の変更がすべて想定外の追加費用になるわけではありません。

事前に建物を調べ、ある程度補強方法を想定しておくこと。解体後に実際の構造を確認し、施工者と一緒に施工性を検討すること。そして、その結果をもう一度設計や耐震計算に戻して確認すること。こうした手順を踏むことで、必要以上に工事を増やさず、より合理的な方法へ組み直すことができます。

解体が進むと、これまで見えなかった柱や梁、筋交いなど、建物の実際の構造が見えてきます

今回の住宅でも、解体前に補強方法を想定していましたが、壁や天井を解体してみると、既存筋交いの位置や数、火打梁の有無など、事前の想定とは違う部分が見つかりました。一方で、実際の柱や梁、床との高さ関係が見えたことで、当初考えていた方法より施工しやすい補強方法へ変更できた部分もあります。つまり、解体後に分かることは、必ずしも悪い知らせだけではありません。実際の建物が見えるからこそ、より確実で、施工しやすく、場合によっては費用を抑えられる方法を選び直せることもあります。

リノベーションでは、解体後にもう一度設計する。それは、想定外に振り回されるためではなく、見えてきた事実をもとに、より良い方法へ組み直すためだと考えています。

想定していた構造と、実際の構造は違うことがある

解体前の段階でも、できる限り既存の状態を調べ、補強方法を想定しておきます。ただ、古い住宅では図面が残っていなかったり、図面があっても、実際の施工がその通りとは限らなかったりします。今回の住宅でも、壁を解体する前は、建築年代や壁の配置から、もう少し多くの筋交いが入っていることを予想していました。

ところが、実際に壁を開けてみると、確認できた既存筋交いは想定より少ない状態でした。また、天井を解体して2階床裏を確認すると、火打梁も入っていないことが分かりました。

もちろん、こうしたことが分かれば、その分だけ補強が必要になる可能性はあります。一方で、解体したことで、柱や梁の位置、梁の掛かり方、床との高さ関係など、それまで見えなかった部分も確認できるようになります。

解体後に現れた既存の柱と筋交い。見えてきた構造を確認しながら、補強方法を検討していきます

つまり、解体は「問題が見つかる工程」であると同時に、より正確に設計できるようになる工程でもあります。大切なのは、解体前の想定をそのまま押し通すことではありません。実際に見えてきた構造に合わせて、補強位置や方法を見直し、その内容をもう一度耐震計算に戻して確認する。リノベーションでは、この行き来が必要になります。

補強方法は、現場を見て変わる

解体前の段階では、耐震診断の結果をもとに、どこをどのように補強するかをある程度決めておきます。ただし、その時点ではまだ壁や天井の中が見えていないため、実際の施工性までは判断しきれません。

今回の住宅では、当初、全体的に構造用合板で補強することを考えていました。

ところが、解体後に柱や梁、床との高さなどの納まり寸法を確認すると、構造用合板で補強するよりも、筋交いで補強した方が施工しやすい部分が多いことが分かりました。

もちろん、筋交いに変更すれば補強箇所は増えます。ただ、施工しにくい方法を無理に採用するより、実際の建物の状態に合った方法を選んだ方が、工事は確実になります。

そこで、設計者側で補強方法を見直し、その考え方を施工者に伝え、現場を一緒に確認しながら施工性を検討しました。そのうえで採用する補強方法を決め、最終的にはその内容をもう一度耐震計算へ戻して、必要な評点が確保できているかを確認します。

つまり、解体後の見直しは、単なる現場対応ではありません。実際の構造を確認し、施工性を検討し、補強方法を決め、再び計算で確認する。

設計は、図面を書けば終わり、というわけではありません。特にリノベーションでは、工事が始まり、建物の中が見えてから初めて分かることがあります。その情報を設計に戻し、必要であれば図面や補強方法を更新していく。そこまで含めて、設計の仕事だと考えています。

解体後に、計画を変えることもある

以前のリノベーションでも、解体後に計画を見直したことがありました。当初は、ある柱を撤去して空間を広くつなげる計画で設計を進めていました。

ところが、天井を解体して梁の組み方を確認すると、その柱を撤去するためには、想定していた以上に大きな構造補強が必要になることが分かりました。

技術的には、柱を撤去することは可能でした。ただ、そのためには補強費用が多く掛かります。そこで、当初の計画にこだわるのではなく、既存の柱を残し、その柱を活かすように計画を見直しました。結果として、見込んでいた構造補強費用が減額となり、その分の予算を別の部分へ振り替えることができました。

既存の柱を残し、その柱を空間の一部として活かしたリノベーション

そして、その制約が、思いがけずユニークな空間につながることもあります。

柱を残さなければならない。
梁をそのまま使わなければならない。
既存の構造をすべて自由には変えられない。

そうした条件を受け入れながら考えることで、新築では最初から思いつかなかったような空間が生まれることがあります。そこも、リノベーションの面白さの一つだと思います。

不確定さに対応できる設計にしておく

リノベーションでは、解体してみなければ分からないことがあります。だからこそ、不確定さをなくそうとするのではなく、不確定さに対応できるように設計しておくことが大切です。

この柱が取れなかったらどうするか。
この補強方法が難しかったら、別の方法へ切り替えられるか。
ここで費用が増えたら、どこで調整するか。

一つの案だけに固定せず、状況に応じて別の方法へ切り替えられるようにしておく。特にリノベーションでは、こうした設計の柔軟性が必要です。

解体後に計画が変わると、予定どおりに進まなかったと捉えられるかもしれません。ただ、私はそうした不確定さを、必ずしもネガティブには捉えていません。

見えなかった構造が見える。
思っていたより残せるものがある。
無理に当初案を実現しない方がよいことも分かる。

そうした情報を受け取って、設計を組み直す。大切なのは、不確定さを消すことではなく、不確定さに対応できる設計にしておくことだと思います。

設計は、図面を書けば終わりではありません。現場で見えてきたことを設計に戻しながら、より良い答えに近づけていく。その柔軟さも、リノベーション設計の大切な部分だと思っています。