予算も、設計する

いま進めている中古住宅のリノベーションで、工事の見積もりが届きました。

設計をひと通り終え、図面を施工者へ渡してから、見積もりが出るまでしばらく待ちます。この時間は、何度経験しても少し落ち着きません。

設計している間も、おおよその工事費は予測しています。それでも、実際の金額は見積もりを取ってみなければ分かりません。

今回の見積もりは、当初想定していた工事費を少し上回りました。ただ、利用できる補助金も含めて考えると、大きく設計を変更することなく進められそうです。

では、なぜ大きな設計変更をせずに済みそうなのか。

振り返ってみると、見積もりが出てから予算について考え始めたわけではありません。

予算について考えることは、実は設計を始めるところから、すでに始まっています。

予算を予測する

新築であれば、建物の大きさや仕様から、坪単価を目安にして、おおよその工事費を想定することができます。

リノベーションは、もう少し複雑です。

同じ30坪の住宅でも、建物の状態はそれぞれ違います。どこまで壊すのか。どこまで既存を利用できるのか。断熱や耐震にどの程度手を入れるのか。工事のし易さによっても、費用は変わってきます。

そのため私は、これまでの工事実績をひとつの目安にしながら、この家ならどのくらいかかりそうかを考えます。建物の状態や工事の難しさ、求める仕様によって、少しずつ金額を補正していきます。

もちろん、正確な金額は施工者から見積もりを取らなければ分かりません。それでも、何の目安も持たずに設計を進めるわけにはいきません。

今回の住宅でも、最初に建物全体の大きさと工事内容から、おおよその工事費を予測しました。そして、施主さんの全体予算と照らし合わせながら、まずは1階を中心にリノベーションすることにしました。

最初から2階まで工事範囲を広げて、見積もりが出てから削るのではなく、まず必要なところから考える。予算に余裕があれば、2階にも手を入れる。

そんな順序で設計を始めています。

削る前に、別の方法を考える

設計を進めていると、施主さんからの要望は少しずつ増えていきます。

せっかくなら、ここも良くしたい。
できれば、これも取り入れたい。

そう思うのは自然なことです。

ただ、予算には限りがあります。すべてをそのまま実現することはできません。

そこで大切になるのが、何を優先するのかを施主さんと一緒に考えることです。

現況写真

今回の住宅では、収納や裏側のスペースは、合板などの下地材をそのまま仕上げとして使い、できるだけ簡素につくることにしました。その一方で、長い時間を過ごすLDKには、無垢材のフローリングを使います。

家の中には、きちんとつくりたいところと、そこまで頑張らなくてもよいところがあります。少し簡素でよいところがあれば、そこで浮いた分を、もっと大切なところへ使う。

既存の床を残すことにしたのも、同じ考え方です。

まだ使えるものを壊して、また新しくつくるのではなく、残せるものは次の工事に利用する。そうすることで、解体や処分、下地をつくり直すための費用を抑えることができます。

ただし、予算を抑えることだけが目的ではありません。

残せるから残す、というわけでもありません。残した方が工事として素直なのか。性能は確保できるのか。出来上がった空間に無理がないか。そんなことを考えながら、別の方法を探します。

予算が足りないから、できないものを順番に削っていく。それだけでは、少し寂しい家づくりになってしまうように思います。

すべての要望を実現することはできなくても、その人にとって大切なものが、きちんと残っている家にはできるかもしれません。

そのために、どこを抑え、どこに使うのか。別のつくり方はないのか。そうした方法を考えることも、設計者の仕事だと思っています。

見積もりで、答え合わせをする

設計がまとまり、施工者へ図面を渡すと、ようやく正式な見積もりが出てきます。

ここで初めて、これまで予測してきた工事費と、実際の金額を照らし合わせることができます。

見積書の内容確認

今回の住宅では、見積もりの金額は当初考えていた工事費を少し上回りました。

ただ、設計を進める段階から、利用できそうな補助制度についても調べていました。その補助金を含めて全体の資金計画を考えると、大きく設計を変更せずに進められそうです。

もちろん、見積もりが予測から大きく外れていれば、そこで設計を見直す必要があります。

仕様を変えるのか。工事範囲を調整するのか。別の施工方法を考えるのか。

そのときに、もう一度設計へ戻ります。

だから私は、見積もりは予算管理の始まりというより、それまで考えてきたことの答え合わせに近いように思っています。

予測しながら設計し、見積もりで確認する。違っていれば、また考える。

設計と予算の間を行ったり来たりしながら、少しずつ現実の建物に近づけていきます。

予算管理は、現場でも続く

見積もりがまとまれば、予算のことは終わり。

そうなれば分かりやすいのですが、特にリノベーションでは、なかなかそうはいきません。

壁や天井を壊してみて、初めて分かることがあります。図面では見えていなかった劣化が見つかることもあれば、逆に、思っていたより状態が良く、予定していた工事が必要なくなることもあります。

そのたびに、本当に必要な工事なのか。どの方法が合理的なのか。どれくらい費用がかかるのかを確認しながら、調整していきます。

追加工事が必要になれば、その分をどこかで調整することもありますし、施工方法を変えることで費用を抑えられることもあります。

つまり、予算管理は見積もりが出たところで終わるのではなく、現場でも続いていきます。

設計段階では、予算を予測しながら設計する。

現場では、実際の状況と費用を確認しながら調整する。

その繰り返しです。

予算には限りがあります。だからこそ、ただ削るのではなく、何を大切にするのかを考え、別の方法を探し、必要なところへ振り分けていく。

間取りや形だけではなく、限られた予算をどう使うかも考える。そう考えると、予算もまた、設計しているものの一つなのかもしれません。