【第8回】リノベーションでは、全部壊して新しくした方がいいんですか?

更新日: | 公開日:
リノベーションでは、全部壊して新しくした方がいいんですか?

中古住宅の間取りをどこまで変えられるのかを考えてきた本間さんご夫婦。

話を聞いているうちに、健太さんには新しい疑問が出てきました。
「どうせリノベーションするなら、柱や梁だけ残して、壁や天井、床などはいったん全部壊し、新しくつくり直した方がいいのでは?」
古い仕上げや下地を残すより、いったん大きく解体してつくり直した方が、きれいで、性能も確実なように思えます。

では実際のリノベーションでは、どこまで壊し、何を残しているのでしょうか。今回は、既存住宅の「残す」と「壊す」の考え方について、金子さんに聞いてみることにしました。

柱や梁だけ残して、全部つくり直した方がいいんじゃないですか?

健太(夫): リノベーションの写真を見ていると、壁や天井をかなり壊している現場もありますよね。だったら、最初からそこまで全部壊して、新しくつくり直した方がいいんじゃないですか?

金子: そういう方法もあります。ただ、私は最初から「全部壊す」とは決めません。

美咲(妻): 残せるものは残すんですか?

金子: まず既存の建物を見て、何に価値があるのか、どこは手を入れる必要があるのかを考えます。リノベーションでは、「古いから壊す」「新しいから良い」と単純に決められないことがあります。

どんなものなら、残したいですか?

美咲(妻): 金子さんが「これは残したい」と思うのは、どんなものですか?

金子: 例えば、本物の木で仕上げられた天井や、無垢材のカウンター、丁寧につくられた障子戸などの造作建具などですね。今、新しく同じものをつくろうとすると、かなり費用がかかるものもあります。

健太(夫): 古いものの方が、かえって価値があることもあるんですね。

金子: あります。それに、何十年も使われてきた木材には、新しい材料にはない色や艶が出ていることもあります。多少傷があったとしても、それを欠点と見るのか、その家が経てきた味わいとして見るのかで、判断は変わってきます。

では、どこを壊すんですか?

健太(夫): 反対に、壊した方がいいところはどこですか?

金子: 耐震補強や断熱改修をきちんと行う場合、壁は比較的、解体することが多いです。

美咲(妻): 壁は全部ですか?

金子: いいえ。必要なところを壊します。
壁の中には、柱や筋かい、断熱材などが隠れています。耐震性能を高めようとすれば、柱と梁の接合部を確認したり、耐力壁をつくったりする必要がありますし、断熱性能を上げる場合も、壁の中へ新しい断熱材を施工します。そうした場所は、仕上げを残したままでは工事ができません。

壁や床の仕上げを解体し、既存の柱・梁・筋かいなどを確認している状態。耐震補強や断熱改修を行うためには、必要な部分を開けて構造を確認することがあります。

壊さない方が、工事費は安くなるんですか?

健太(夫): では、できるだけ壊さなければ、工事費も安くなりますか?

金子: 一般的には、解体してつくり直す範囲が増えれば、工事費は上がります。壊すためにも費用がかかりますし、壊したところは当然、もう一度つくらなければなりません。

美咲(妻): 解体費だけではないんですね。

金子: そうです。解体、処分、新しい下地、仕上げまで全部必要になります。
ただし、「安くするために何でも残す」というのも違います。例えば、断熱や耐震のために壊した方が良い壁を、工事費を抑えるためだけに残してしまえば、必要な性能を確保できないことがあります。

残すか壊すかは、どうやって決めるんですか?

美咲(妻): そうすると、判断が難しそうですね。

金子: そうですね。そこは、かなり考えます。
その部分に、残すだけの価値があるのか。性能上、手を入れる必要があるのか。残した場合と壊した場合で、工事費がどう変わるのか。そして、新しい暮らしの中で活かせるのか。いくつかの条件を重ねながら判断します。

リノベーションで残す・壊すをどう判断するか

健太(夫): 古いか新しいかだけで判断しているわけではないんですね。

金子: そうですね。「残せるか」ではなく、「残す意味があるか」を考えている、と言った方が近いかもしれません。

古いものを残すと、せっかくリノベーションしても、古さが目立ってしまいませんか?

美咲(妻): 古いものを残すと、せっかくリノベーションしても、古さが目立ってしまいませんか?

金子: むしろ、そこが面白いところだと思っています。全部を新しい材料に交換すれば、きれいにはなります。ただ、それでは、その家に元々あったものがほとんど残らなくなります。
古い柱や天井の隣に、新しい壁や家具をつくる。昔からあるものと新しいものが同じ空間に存在することで、新築とは違う表情が生まれます。

既存の柱を残しながら、新しい照明やキッチンを組み合わせたリノベーション。古いものと新しいものが同じ空間に共存しています。

健太(夫): 新築っぽくすることが、リノベーションの目的ではないんですね。

金子: 私はそう考えています。

残すと壊すの間に、リノベーションの設計がある

美咲(妻): 何を残すかによって、完成する家も変わりそうですね。

金子: 大きく変わります。同じ中古住宅でも、全部壊してつくり直すのか、柱や梁、天井、建具などを残すのかによって、出来上がる空間はまったく違います。だから私は、「何をつくるか」を考える前に、「何を残すか」「どこを壊すか」をかなり考えます。

残すことが目的でもありませんし、壊すことが悪いわけでもありません。
その家に残っている価値を見つけながら、性能や暮らしのために必要なところにはきちんと手を入れる。その境界を見極めること自体が、リノベーションの設計なのだと思います。

この記事のまとめ

  • リノベーションでは、最初からすべて壊すと決める必要はない
  • 無垢材の天井やカウンター、造作建具など、今ではつくるのに費用がかかるものには残す価値があることもある
  • 耐震補強や断熱改修を行う部分は、構造や壁の内部を確認するために解体が必要になることが多い
  • 解体範囲が広がるほど、解体・処分・復旧の工事費も増えやすい
  • ただし、工事費を抑えるためだけに必要な改修を行わないという判断も適切ではない
  • 「残せるか」ではなく、「残す意味があるか」を考える
  • 何を残し、どこを壊すかを見極めること自体が、リノベーションの設計

(連載第9回に続きます)

この記事の著者

金子勉
建築家 / 代表

金子 勉 Tsutomu Kaneko

美しい意匠設計に加え、高度な構造・設備設計までトータルで手掛ける建築家。無垢材などの自然素材を活かし、使い込むほどに味わいの増す空間と豊かさを実感できる暮らしを提案。新潟の風土に寄り添い、土地選びから建物診断、コンサルティングまで施主に伴走する家づくりを行う。