【第7回】リノベーションでは、どこまで間取りを変えられますか?

中古住宅の耐震性や断熱性について考えてきた本間さんご夫婦。次に気になってきたのは、間取りです。
中古住宅を見ていると、建物の広さは十分なのに、「今の暮らしには少し使いにくそう」と感じる間取りもあります。リノベーションでは、既存の間取りをどこまで変えることができるのでしょうか。
今回は、古い住宅の間取りを今の暮らしに合わせて組み直す考え方について、金子さんに聞いてみることにしました。
どうして古い家の間取りは、今の暮らしに合わないんですか?
美咲(妻): 中古住宅を見ていると、部屋数は十分にあるのに、なんとなく暮らしにくそうだと感じる家があります。どうしてなんでしょうか?
金子: 家がつくられた時代と、今では暮らし方が変わっているからだと思います。
例えば昔の住宅では、キッチンは料理をするための場所として、居間や食事をする場所とは分けてつくられることが多くありました。
健太(夫): 今は、LDKがひとつにつながっている家が多いですよね。
金子: そうですね。設備機器の性能が良くなったこともありますし、暮らしに対する価値観も変わってきました。
料理をしながら家族と話したい。子どもの様子を見ながら家事をしたい。キッチンも暮らしの中心にしたい。そう考える人も増えています。
美咲(妻): 昔の間取りが悪いということではないんですね。
金子: そうです。その時代の暮らしには合理的だった間取りが、暮らし方の変化によって、今の生活には合わなくなっていることがあります。
だからリノベーションでは、古い間取りをそのまま新しくするのではなく、今の暮らしに合わせて家の使い方を組み直していきます。
リノベーションなら、間取りはどこまで変えられますか?
健太(夫): では、リノベーションなら間取りはかなり自由に変えられるんですか?
金子: 大きく変えられる住宅もあります。ただ、新築のように何もないところから考えるわけではありません。既存の柱や耐力壁、階段、水回りなど、それぞれ動かしやすさが違います。
美咲(妻): 今あるものに合わせて間取りを考える、ということですか?
金子: 合わせるというより、既存の建物を読みながら、新しい暮らしに使えるものを探していく感覚に近いですね。
全部なくして新築と同じ状態にするのではなく、「これは残せそうだ」「これは動かした方が良い」と、一つずつ判断していきます。
柱や壁は、取ることができますか?
健太(夫): 例えば、細かく分かれている部屋をつなげて、大きなLDKにしたい場合、途中にある柱や壁は取れるんですか?
金子: 取れるものもありますし、残した方が良いものもあります。
まず、その柱や壁が構造上どんな役割を持っているかを確認します。単なる間仕切り壁であれば撤去できることもありますが、耐力壁として地震に抵抗している場合は、そのまま取り除くことはできません。
美咲(妻): では、耐力壁があるところは間取りを変えられないんですか?
金子: 必ずしもそうではありません。その壁を取る代わりに、別の位置に耐力壁を設けて、建物全体の耐震バランスを取り直すこともできます。ですから、間取りと耐震補強は別々に考えるのではなく、一緒に考えていきます。
残った柱は、邪魔になりませんか?
美咲(妻): 壁は取れても、柱だけ残ってしまうこともありますか?
金子: あります。でも、その柱を必ずネガティブに考える必要はありません。
以前のリノベーションでは、既存の柱を残して、その柱をきっかけにLDKを二つのゾーンに緩やかに分けたことがあります。

健太(夫): 壁で仕切らなくても、柱があることで場所が分かれるんですね。
金子: そうです。ひとつの大きな空間ですが、柱を境に、こちらはリビング、こちらはダイニングというように、場所の性格を少し変えることができます。
別の住宅では、既存柱に板を掛け渡して、そのままダイニングテーブルとして使ったこともあります。

美咲(妻): 柱を避けるのではなく、使ってしまうんですね。
金子: そうですね。既存住宅には、新築にはない柱や梁、段差などが残っています。
それを邪魔なものとして全部なくすのではなく、「これを新しい空間に使えないだろうか」と考えると、そこからその家ならではの間取りが生まれることがあります。
階段は、移動できますか?
健太(夫): 階段の位置が使いにくい場合は、移動することもできますか?
金子: 技術的には移動できます。ただ、階段は比較的大掛かりな工事になりやすい部分です。
階段を別の場所につくるためには、二階の床に新しい開口をつくる必要があります。既存の階段があったところには床をつくり直しますし、場合によっては梁の掛け替えも必要になります。
美咲(妻): 階段そのものを動かすだけではないんですね。
金子: そうですね。構造にも関わりますし、工事内容によっては法的にも大規模な改修に該当する可能性があります。ですから、階段については「動かせるか」だけではなく、そこまでして動かすことで暮らしがどのくらい良くなるのかを考えます。
キッチンやお風呂は、移動できますか?
美咲(妻): 水回りはどうですか?キッチンやお風呂の位置も変えられるんでしょうか?
金子: 水回りを移動すること自体は、建築工事としてそれほど難しいことではありません。ただ、給水管や排水管などの設備配管も一緒に移動する必要があります。
健太(夫): 遠くへ移動すると大変になるんですか?
金子: そうですね。特に排水管には水を流すための勾配が必要なので、元の位置から遠くなるほど配管経路が長くなります。床下の高さや基礎の位置によっては、配管工事が大掛かりになることもあります。
美咲(妻): 使えるなら、今の水回りの位置を活かした方がいい場合もあるんですね。
金子: そういう場合は多いです。ただ、既存位置にこだわったことで暮らしにくい間取りになるのであれば、移動した方が良いこともあります。大切なのは、「動かせるかどうか」だけで決めることではありません。

既存の条件を、新しい間取りの手掛かりにする
健太(夫): リノベーションなら、全部自由に変えられると思っていました。
金子: 新築とは違って、すでにそこに建物がありますからね。ただ、それを不自由だと考える必要はないと思います。柱や耐力壁、階段、水回りなど、それぞれの条件を確認しながら、動かすものと残すものを決めていきます。
美咲(妻): 残したものを、新しい間取りに使うこともできるんですね。
金子: そうですね。リノベーションでは、既存の制約をすべて消すことだけが設計ではありません。今あるものを読み取り、それを新しい暮らしの手掛かりとして使う。そうすることで、新築とは違う、その家だから生まれる間取りをつくることができると思います。
この記事のまとめ
- 古い住宅の間取りが今の暮らしに合わないのは、暮らし方や価値観が時代とともに変化していることも大きな理由
- リノベーションでは間取りを大きく変えられる場合もあるが、柱・耐力壁・階段・水回りでは動かしやすさが異なる
- 耐力壁を動かす場合は、別の位置で耐震性能とバランスを確保することを考える
- 既存柱は、空間を緩やかに分けたり家具と組み合わせたり、新しい設計の手掛かりとして活かすこともできる
- 階段の移動は床や梁まで工事が広がりやすく、水回りの移動は給排水配管との関係を考える必要がある
- リノベーションでは、既存の条件をすべて消すのではなく、新しい暮らしの手掛かりとして読み替えることができる
(連載第8回に続きます)
この記事の著者
金子 勉 Tsutomu Kaneko
美しい意匠設計に加え、高度な構造・設備設計までトータルで手掛ける建築家。無垢材などの自然素材を活かし、使い込むほどに味わいの増す空間と豊かさを実感できる暮らしを提案。新潟の風土に寄り添い、土地選びから建物診断、コンサルティングまで施主に伴走する家づくりを行う。