【第9回】新築と中古住宅+リノベーション、結局どちらがいいんですか?

中古住宅の耐震性や断熱性、間取り、費用、そして何を残し、どこを壊すのか。ここまで本間さんご夫婦は、中古住宅をリノベーションするために考えておきたいことを、一つずつ聞いてきました。
話を聞くほどに、リノベーションでできることも、注意しなければならないことも少しずつ見えてきました。
そこで健太さんには、あらためて一つの疑問が浮かびます。
「結局のところ、新築と中古住宅+リノベーションでは、どちらを選べばいいんでしょうか?」
今回は、これまで考えてきたことを少し離れたところから見渡しながら、新築とリノベーションをどう選べばよいのか、その考え方について金子さんに聞いてみることにしました。
結局、新築とリノベーション、どちらがいいんですか?
健太(夫): ここまで中古住宅のことをいろいろ聞いてきましたが、結局、新築と中古住宅を買ってリノベーションするのでは、どちらがいいんでしょうか?
金子: 新築とリノベーションには、それぞれ向いている条件があります。どちらが合うかは、どんな暮らしをしたいのか、必要な性能や予算、そして出会った中古住宅の状態によって変わってきます。
美咲(妻): では、人によって答えが違うということですか?
金子: そうですね。だから私は、家づくりを始める段階で、どちらかに決めてしまわなくてもいいと思っています。先に「新築にする」「リノベーションにする」と決めてしまうと、その方法の中だけで答えを探すことになります。
それよりも先に、自分たちがどんな暮らしをしたいのか、どんな場所に住みたいのか、どのくらいの性能が必要なのか、そして、どこまで予算をかけられるのかを考えてみる。
健太(夫): それを考えてから、新築かリノベーションかを決める?
金子: そうですね。条件を一つずつ整理していくと、新築の方が合理的なこともあれば、良い中古住宅との出会いによって、リノベーションの方が魅力的になることもあります。
「どちらを選ぶか」を最初に決めるというより、考えていった結果として、どちらが自分たちに合っているのかが見えてくる、という順番の方が自然だと思います。
家づくりを始めるときに、先に決めることは何ですか?
美咲(妻): では、新築かリノベーションかを決める前に、まず何を考えればいいんでしょうか?
金子: まずは、どんな暮らしをしたいのかを考えることだと思います。
例えば、家族がどこで過ごしたいのか。庭とのつながりが欲しいのか。家事をしながら家族の様子が見える方がいいのか。静かに一人で過ごせる場所も必要なのか。
そういう暮らしのイメージが先にあって、そのために必要な広さや間取り、性能を考えていきます。
健太(夫): 建物の話より先に、暮らしの話なんですね。
金子: そうですね。建物のつくり方から考え始めると、「新築ならこう」「リノベーションならここまで」と、方法に引っ張られやすくなります。でも本来は、先に目的があって、その目的に合う方法を選ぶ方が自然だと思います。
美咲(妻): 性能や予算も、そのあとに考えるんですか?
金子: 暮らしと並行して考えます。例えば、冬でも家の中を暖かくしたい、地震に対して安心できる家にしたい、ということも暮らしの条件の一つです。その希望に対して、どこまでの性能が必要なのか。そのためにどのくらい費用がかかるのかを整理していきます。
健太(夫): そうやって考えていくと、途中で新築の方が良さそうだとか、リノベーションでも十分できそうだとか、見えてくるんですね。
金子: そうですね。最初に方法を決めてしまうのではなく、暮らし、場所、性能、予算を重ねていく。その中で、どちらが自分たちに合っているのかが見えてくると思います。
では、どんなときに新築へ傾くんですか?
健太(夫): 新築の方が向いているのは、どんな場合なんでしょうか?
金子: いくつかありますが、一つは、求める性能がかなり高い場合です。例えば、耐震性能や断熱性能をできるだけ高い水準で、しかも最初から確実に計画したい場合ですね。
美咲(妻): リノベーションでも性能は上げられるんですよね?
金子: もちろん上げられます。ただ、既存住宅の場合は、今ある基礎や柱、梁、間取りなどを活かしながら性能を上げていくことになります。そのため、目標とする性能が高くなるほど、補強する範囲や解体する範囲も大きくなりやすいです。
健太(夫): そうすると、工事も大きくなるんですね。
金子: そうですね。耐震補強、断熱改修、間取り変更、設備の更新まで広く行っていくと、新築との費用差がだんだん小さくなることがあります。その場合は、「ここまで既存住宅に手を入れる意味があるのか」ということを、一度考えた方がいいと思います。
美咲(妻): 間取りの自由さも、新築の方が大きいですか?
金子: 一般的にはそうです。新築なら、既存の柱や階段、水回りの位置に縛られず、敷地条件に合わせて一から考えられます。もちろん敷地や法規、予算といった条件はありますが、建物そのものについては自由度が高いです。

健太(夫): では、「こういう家にしたい」という希望がはっきりしていて、それを既存住宅に合わせるのが難しい場合は、新築の方が自然なんですね。
金子: そういうこともあります。
もう一つは、条件の良い中古住宅が見つからない場合です。中古住宅+リノベーションは、建物との出会いに左右されます。立地は良くても建物の状態が悪い、建物は良くても敷地条件が合わない、ということもあります。
探し続けた結果、「この条件なら土地を探して新築した方が、自分たちの希望に近い」と判断することもあります。
反対に、どんなときにリノベーションへ傾くんですか?
美咲(妻): では、リノベーションの方が向いているのは、どんな場合ですか?
金子: 一番大きいのは、「この建物を活かしたい」と思える理由がある場合だと思います。
例えば、立地がとても気に入っている。庭や周辺環境が良い。建物の状態も悪くない。古いものの持つ雰囲気や味わいが好き。柱や梁、建具、天井などに残したいものがある。そういう条件が重なっている住宅ですね。
健太(夫): 単に中古住宅の方が安いから、ということではないんですね。
金子: もちろん予算は大切ですが、それだけではありません。
中古住宅には、すでにそこにあるものがあります。庭の木が育っていたり、長い時間を経た木材や建具が残っていたりします。そうした既存のものを活かすことで、新築とは違う空間が生まれることがあります。

美咲(妻): 前に話していた、柱を残して空間に活かすようなことですね。
金子: そうですね。リノベーションというと、既存住宅の制約に合わせて我慢する、というイメージを持つ人もいるかもしれません。でも私は、それとは少し違うと思っています。
健太(夫): どう違うんですか?
金子: 「ここに柱があるから仕方なく残す」のではなく、「この柱があるから、こんな空間ができるかもしれない」と考える。中古住宅に暮らしを合わせて妥協するのではなく、既存の建物から、新しい暮らしの可能性を見つけていくということです。
美咲(妻): そう考えると、新築とは家のつくり方そのものが違いますね。
金子: そうですね。新築は何もないところから組み立てていきますが、リノベーションは、すでにあるものを読み取るところから始まります。
その建物に残っているものに魅力を感じて、それを新しい暮らしの中で活かせると思えたとき、リノベーションを選ぶ意味が出てくると思います。
良い中古住宅に出会うまでは、決められないんですか?
美咲(妻): そうすると、実際に中古住宅を見つけるまでは、リノベーションにするかどうかは決められないんですか?
金子: 最初からはっきり決めなくてもいいと思います。実際には、中古住宅を探しながら、少しずつ方向が見えてくることが多いです。
健太(夫): 見ていくうちに決まっていく、ということですか?
金子: そうですね。何件か見ていくと、自分たちが何に惹かれるのかも分かってきます。立地なのか、庭なのか、建物の雰囲気なのか。あるいは、見てみたけれど、どうしても既存の間取りや状態に魅力を感じない、ということもあります。
美咲(妻): そうすると、新築の方が合っていると分かることもあるんですね。
金子: あります。
中古住宅を見ながら、「この家なら活かしてみたい」と思える建物に出会えば、リノベーションの方向へ傾いていきますし、なかなかそういう建物に出会えなければ、新築の方が自分たちには合っていると見えてくることもあります。
だから、最初に新築かリノベーションかを決めてから探すというより、探しながら、自分たちに合う方法が少しずつ見えてくる、という感じに近いですね。
最終的には、何を基準に判断するんですか?
健太(夫): 探しながら方向が見えてくるとして、最終的には、何を基準に判断するんですか?
金子: 一つの条件だけでは決めません。暮らし、建物の状態、必要な性能、予算、それから、その家そのものに魅力を感じるかどうか。いくつかの条件を重ねて見ていきます。
例えば、判断の材料になるのは、次のような要素です。

美咲(妻): どれか一つが良ければ決められる、ということではないんですね。
金子: そうですね。例えば、立地がとても良くても、建物の状態が悪くて大きな補修が必要なら、総事業費はかなり上がるかもしれません。反対に、建物の状態が良くても、自分たちの暮らしにどうしても合わないのであれば、その家を選ぶ意味は薄くなります。
健太(夫): 性能も同じですか?
金子: 同じです。耐震や断熱をどこまで高めたいのかによって、必要な工事は変わります。既存住宅の良さを活かしながら必要な性能まで上げられるのであれば、リノベーションする意味があります。
一方で、求める性能を実現するために建物のほとんどをつくり直すような工事になるのであれば、新築と比較した方が良いこともあります。
美咲(妻): 結局、いろいろな条件のバランスなんですね。
金子: そうですね。ただ、「条件を採点して合計点を出す」という感じではありません。
その家を見たときに、「この庭は残したい」「この建物なら、こんな暮らしができそう」という魅力があって、その一方で、必要な性能や予算にも無理がない。そうやって条件が重なったときに、初めて「この家ならリノベーションする意味がある」と思えるのだと思います。
健太(夫): 逆に、いろいろ検討した結果、「ここまで手を入れるなら新築の方がいい」という答えになることもある。
金子: もちろんあります。それも一つの正しい判断だと思います。
新築もリノベーションも、目的ではない
健太(夫): ここまで聞いてくると、新築かリノベーションかを選ぶこと自体が、家づくりの目的ではないんですね。
金子: そうですね。どちらも、暮らしを実現するための方法だと思います。
最初に「新築にする」「リノベーションにする」と決めるのではなく、まず自分たちがどんな暮らしをしたいのかを考える。そのうえで、必要な性能や予算、住みたい場所、中古住宅なら建物の状態や残したいものを見ていく。
美咲(妻): そうやって考えていくうちに、自分たちに合う方が見えてくる。
金子: そうですね。中古住宅を探している途中で、「この家なら活かしたい」と思える建物に出会うこともありますし、いろいろ見た結果、「自分たちには新築の方が合っている」と分かることもあります。
どちらになっても、それまで考えてきたことが無駄になるわけではありません。
健太(夫): 家のつくり方を決めるために考えているのではなく、自分たちの暮らしを知るために考えている、とも言えそうですね。
金子: そうだと思います。新築かリノベーションかというのは、最終的にはその暮らしを実現するための選択肢です。
建物のつくり方を先に決めるのではなく、暮らしから考える。
その条件を一つずつ重ねていった結果、新築という答えになることもあれば、リノベーションという答えになることもあります。
この記事のまとめ
- 新築とリノベーションには、それぞれ向いている条件がある
- 家づくりの最初に、新築かリノベーションかを決めてしまう必要はない
- まず考えたいのは、どんな暮らしをしたいのか、必要な性能、住みたい場所、予算
- 高い性能や間取りの自由度を求め、大規模な改修が必要になる場合は、新築の方が合理的なこともある
- 立地や庭、建物、素材など「この家を活かしたい」と思える理由があれば、リノベーションの可能性が大きくなる
- 中古住宅を探していく中で、自分たちが何を大切にしているのかが分かり、新築かリノベーションかの方向も少しずつ見えてくる
- 最終的には、暮らし、建物の状態、性能、予算、その家の魅力を重ねて判断する
- 新築もリノベーションも目的ではなく、自分たちの暮らしを実現するための方法
この記事の著者
金子 勉 Tsutomu Kaneko
美しい意匠設計に加え、高度な構造・設備設計までトータルで手掛ける建築家。無垢材などの自然素材を活かし、使い込むほどに味わいの増す空間と豊かさを実感できる暮らしを提案。新潟の風土に寄り添い、土地選びから建物診断、コンサルティングまで施主に伴走する家づくりを行う。