【第1回】中古住宅を買ってリノベーションするって、実際どうなんですか?

夫38歳、妻36歳、子ども1人の本間さんご夫婦。現在は新潟市内の賃貸住宅に暮らしています。そろそろ自分たちの家を持ちたいと考え、当初は土地を購入して新築住宅を建てることも検討していました。しかし、土地代と建築費を合わせて考えると、自分たちの予算では少し難しそうです。
そこで気になり始めたのが、中古住宅を購入してリノベーションするという方法でした。「中古住宅を買ってリノベーションすれば、予算を抑えながら、自分たちの思い描く暮らしを実現できるのだろうか。」そんな疑問を持った本間さんご夫婦が、金子勉建築設計事務所を訪ねました。

健太(夫): 新築も考えていたんですが、土地を買って家を建てるとなると、どうしても予算的に厳しくて。それで最近、中古住宅を買ってリノベーションする方法もあるのかなと思い始めています。
美咲(妻): 中古住宅なら、新築より費用は抑えやすいんでしょうか?
金子: そうですね。新築に比べると、リノベーションの方が総予算は抑えやすいと思います。ただし、リノベーションだから必ず安くなる、というわけではありません。
例えば、間取りを大きく変えて、耐震性や断熱性も高め、仕上げもほとんど新しくする。そこまで新築と同じような内容を求めると、費用も新築に近づいていきます。
健太(夫): 中古住宅を買えば、それだけで安くなるというわけではないんですね。
金子: そうですね。リノベーションで費用を抑えるには、今あるものを活かすという考え方が大切です。
既存の間取りや柱、梁、床、建具など、使えるものはできるだけ活かす。何でも新しくするのではなく、残すものと変えるものを考える。それがリノベーションでは大切だと思います。

本当に、自分たちの思い描く暮らしになりますか?
美咲(妻): 費用を抑えられる可能性があるのは分かりました。ただ、今あるものを活かすとなると、自分たちの希望を諦めなくてはいけないんでしょうか。私たちは、家族が一緒に過ごせる場所があって、庭ともつながっていて、将来子どもがもう1人増えても困らない家にしたいと思っています。
金子: そこは、中古住宅を選ぶときにとても大切なところです。
技術的にリノベーションできる建物でも、お二人の思い描いている暮らしが、その家で無理なく実現できるとは限りません。
例えば、庭とのつながりを大切にしたいのに、敷地にほとんど余白がなかったり、周囲の建物との関係から希望するような明るさが得られなかったりすることもあります。
反対に、建物は古くても、広さや構造、敷地、周辺環境などに可能性が残っていれば、とても良い住まいにできることもあります。

健太(夫): 家が古いか新しいかだけでは判断できないんですね。
金子: そうですね。新築の場合は、敷地条件の中でゼロから考えられますが、リノベーションの場合は、そこにすでに建物があります。
だから、自分たちの希望をそのまま当てはめるというより、「この家なら、どんな方法で自分たちの暮らしを実現できるだろう」と考えていくことになります。
美咲(妻): 今ある家に合わせる、ということですか?
金子: 合わせるというより、その家だからできる方法を一緒に探していく、という感覚に近いですね。
どんな中古住宅でもリノベーションできますか?
健太(夫): そうすると、どんな中古住宅でもリノベーションできるわけではないんでしょうか?
金子: 工事そのものは、多くの建物でできます。
ただ、「できるかどうか」と「現実的な予算でできるかどうか」は、分けて考えた方がいいと思います。例えば、建物の劣化が進んでいたり、耐震性が低かったり、法的な条件に問題があったりすると、それを直すだけでも多くの費用がかかります。
美咲(妻): 本来やりたいことに使える予算が少なくなってしまうんですね。
金子: そういうことです。
それから、建物そのものに大きな問題がなくても、お二人の思い描いている暮らしと、既存の間取りや敷地、周辺環境の相性が良くないこともあります。そこを無理に変えようとすると、大きな間取り変更や構造変更が必要になって、やはり費用が増えていきます。
健太(夫): 技術的にはできても、その家を選ぶことが合理的とは限らないんですね。
金子: そうですね。どの建物でもリノベーションはできますが、大切なのは、無理なく予算の中で思い描く暮らしを実現できるかどうかです。
設計者は何を見て判断するんですか?
健太(夫): では、設計者はどんなところを見て、「この家ならいけそうだ」と判断しているんですか?
金子: まず、建物そのものの状態を、経験と知識から見ます。劣化の状態、構造、耐震性、法的な条件、どこまで改修しやすいか。そういったことを確認します。
不動産情報だけでは分からないことも多いので、実際に現地へ行って建物を見ますし、周辺環境も確認します。必要に応じて、ハザードマップや崖地に関する規制なども調べます。
美咲(妻): 建物だけを見ているわけではないんですね。
金子: そうですね。
同時に、お二人がどんな暮らしをしたいのかも聞きます。今の家族構成だけではなく、これから家族がどう変わっていくのか。家でどんなふうに過ごしたいのか。何を大切にしたいのか。
それから、総事業予算も確認します。

そうした条件を重ねながら、「この建物で、お二人の思い描いている暮らしがどこまで実現できそうか」を考えていきます。
健太(夫): 建物の良し悪しだけを見ているわけではないんですね。
金子: そうです。建物を評価するというより、その建物と、その人たちの暮らしとの相性を見ている、という方が近いかもしれません。
中古住宅を買う前に相談した方がいいんですか?
健太(夫): そうすると、中古住宅を買ってから相談するのではなく、買う前に相談した方がいいんですね?
金子: そうですね。できれば、買う前に相談してください。購入してしまった後では、その建物を前提に考えるしかありません。
でも購入前であれば、建物の状態や構造、法的な条件、耐震性や断熱性、予算などを確認しながら、「この家なら可能性がありそう」「この物件はやめた方がいい」といったところから一緒に考えることができます。
美咲(妻): 物件を決めてから設計をお願いするものだと思っていました。
金子: 中古住宅の場合は、物件を選ぶところもリノベーションの一部だと考えた方がいいと思います。
中古住宅を探していると、どうしても価格や築年数、広さ、間取りなどに目が行きます。でも、本当に大切なのは、その家で自分たちがどんな暮らしをできるかです。
健太(夫): その家が、自分たちの暮らしを受け止められるかどうかを見る、ということですね。
金子: そうですね。
ただ、その家で思い描いた暮らしがどこまで実現できるかは、間取りや見た目だけでは判断しにくいところもあります。建物の状態や構造、法的な条件、予算なども含めて考える必要があるからです。
中古住宅を探し始めた段階から相談してもらえれば、その家にどんな可能性があるのか、一緒に考えることができます。
この記事のまとめ
- リノベーションは、新築に比べて総予算を抑えやすい。ただし、費用を抑えるには既存の建物を活かす考え方が大切。
- 中古住宅は、建物の状態だけでなく、自分たちの思い描く暮らしとの相性を見る必要がある。
- 劣化状態、構造、法的条件、周辺環境、耐震性・断熱性、予算などを総合的に確認する。
- 中古住宅を購入する前に相談することで、その家にどんな可能性があるのかを一緒に考えることができる。
(連載2回目に続きます)
この記事の著者
金子 勉 Tsutomu Kaneko
美しい意匠設計に加え、高度な構造・設備設計までトータルで手掛ける建築家。無垢材などの自然素材を活かし、使い込むほどに味わいの増す空間と豊かさを実感できる暮らしを提案。新潟の風土に寄り添い、土地選びから建物診断、コンサルティングまで施主に伴走する家づくりを行う。