【第1回】設計事務所で家を建てるってどういうことですか?

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【第1回】設計事務所で家を建てるってどういうことですか? - 教えてください、金子さん!

結婚して5年目の松永さんご夫婦。賃貸の一軒家にお住まいで、最近は収入も安定して金銭的な余裕もでき、そろそろマイホームを建てたいねと2人で話す機会が増えてきました。今以上の住み心地はもちろん、デザインにもこだわりたい2人。ネットで検索しているとそのデザイン性に惹かれて金子勉建築設計事務所のWebサイトにたどり着いたようです。
家づくり初心者の2人は、とりあえず話を聞いてみようとすぐに連絡をとり、事務所にやってきたのでした。

祐樹(夫): こんにちは、先日ご連絡した松永です。今日はよろしくお願いします。

金子: お待ちしていました、設計者の金子です。今日は事務所までご足労いただきありがとうございます。

祐樹: とても趣のある建物ですね…!写真では見ていたんですけど、実際来てみると落ち着いた雰囲気にびっくりしました。

金子: ありがとうございます。その場所に流れる空気感というのは実際に肌で感じてもらわないとわからないですから、今日は来ていただけて良かったです。
さて、先日はお家を建てたいということでご連絡いただきましたが、まずはお話を聞かせてもらえますか?途中何かご質問があれば、自由に聞いていただいて構いませんので。

祐樹: わかりました、ありがとうございます。ではまず自己紹介から。今年でお互いに30代後半、結婚して5年で、今は賃貸の一軒家に住んでいます。私はフリーランスのITプログラマーで、東京から新潟にUターンで戻ってきたタイミングで独立しました。最近収入も安定してきたので、そろそろ自分たちの家を建てたいと思いまして。ただ、いろいろと家づくりの情報を見ている中で、ハウスメーカーや工務店がつくる大衆的な家よりも、デザイン性と機能性を両立した自分たちらしい家を建てたいと思ったんです。

瑠璃子(妻): 1番は今住んでいる賃貸の家が冬すごく寒くて…。私、育ちは関東なんですけど、新潟の冬は天気が悪い日が多いし、おまけに寒いと気分的にも落ちちゃうんですよね。

金子: たしかに、家の中が寒いと行動的にはなれないですよね。少し前の賃貸物件だとおそらく断熱材もあまり入ってないでしょうし、寒く感じるのも無理はないと思います。だいたいの方が人生に一度家を建てて、そこから長く住み続けていくわけですから、寒いよりは温かいほうがもちろん良いです。長い目で見れば、身体への健康的な負担も少なく済みますし。

瑠璃子: それに冬の朝方、大型の除雪車が来るとその振動で家がすごく揺れて目が覚めたりとか…ダメなところを挙げだすとキリが無いんですけど。

祐樹: そんなときにネットや書籍で断熱住宅のことを知りました。それでせっかくなら暖かい家を建てたいと思ってたときに金子さんをネットで見つけたんです。サイトに載せられていた建物の写真を見たときの洗練されたデザインと、ブログで断熱のことを詳しく書かれていたのでこの人なら自分たちに合ってるかもって。

金子: ありがとうございます、そうだったんですね。理想があるというのはとても良いことだと思います。デザインと機能性を両立する設計は私の得意とする家づくりですので、お二人の悩みは解決できますよ。

祐樹: ただ…今回は見つけた勢いで連絡してしまったんですけど、家を建てるってお金がかかることですし、どう進めていくのかまだよくわかっていなくて。そこも含めて話を聞きに来ました。

金子: わかりました。でははじめに私の事務所についてご説明しましょう。

設計者の仕事は図面を書くだけではありません

事務所の内観

金子: この金子勉建築設計事務所は、設計者である金子が代表を務める設計事務所です。普段は新潟県内を中心に住宅やオフィス、店舗などの設計業務を行っています。今回のご相談のような「住宅の設計」と聞くと、設計する人って図面を書くだけなんでしょ、と思われる方もいるかもしれませんが、実は設計の業務というのは設計業務監理業務を行う仕事なんです。

1. 設計業務

金子: まず設計業務のほうは、先ほどの図面を作成するほかに、次のような業務を行います。

  • 間取りやサイズ感の確認のための模型作成
  • 手書きスケッチの作成
  • 製品カタログやサンプル部材の取り寄せ、比較検討
  • 仕上材、住宅設備の選定
  • 耐震性能、断熱性能の計算
  • 工事業者の選定
  • 見積金額の査定や減額仕様の検討

まとめると、設計業務は施主*さんに必要なものを考え、打ち合わせを重ねながら、家づくりに必要な情報を図面にまとめていく業務です。
*施主(せしゅ)・・・家づくりをおこなう依頼者さんのこと。今回は松永さんが施主です。)

設計者によって出来上がる住宅の仕様やデザインが違ってくるので、一番個性が出やすく、皆さんがイメージする「ザ・設計」という業務になります。

2. 監理業務

金子: 次に、監理業務とは工事業者が図面の指定通りに工事を行っているかを確認していく業務になります。工事が始まってからはこまめに現場に行き、図面を元に各部をチェックするとても重要な業務です。もし図面通りではない場合、工事のやり直しを指示します。
第三者として工事をチェックすることで、ムリ・ムダ・ムラのない確実な家づくりを行うためのものです。極端なことを言えば、監理業務を行うことで欠陥住宅になってしまうことを防げるわけですね。

祐樹: そうなんですか…設計者と聞くと机に向かって図面を書く知的なイメージのお仕事だと思ってましたが、現場にも頻繁に足を運ばれているんですね。

金子: はい。間違ったままある程度進んでしまうともう修正が効かない、なんてこともあり得ますので、すべての業務で気が抜けません。

設計者の仕事

工務店やハウスメーカーとの最大の違いはデザインの自由度

祐樹: ということは、工事は誰かにお願いするってことですか?

金子: そのとおりです。私の業務は設計と監理までなので、建築工事は目的にあった工務店に依頼することになります。依頼する工務店は指定がなければ私のほうで選定しますが、施主さんとお付き合いのある工務店にお願いすることもできますよ。

祐樹: そうなんですか。そういえば、金子さんに連絡する前に工務店にも話を聞きに行ったことがあるんです。その時は具体的な話はしなかったのですが、設計事務所と工務店ってどちらも設計は行うわけですよね?この2つはどう違うんですか?

金子: まず工務店というのは、大工さんを抱える建築技術寄りの施工会社です。家の本体工事をメインに行い、大工さんが行えない電気工事やガス・水周りなどの設備工事は協力会社に外注となるのですが、その取りまとめも行います。その工務店の中に設計士がいる場合は自社で設計を行っていますし、設計士がいない工務店は建てることに特化した会社として、ハウスメーカーの下請けや我々のような設計事務所と組んでいるところもありますね。
工務店と設計事務所の設計を比べると、工務店のほうがスピーディですがデザインの自由度は低くなるでしょう。デザイン性に関しては多少相談に乗ってくれるでしょうが、通常は効率を考えて工務店独自のカタログや規格を設定しているケースもあります。それに自社の得意な工法に寄せてしまっている場合もあるでしょうね。そういった理由から、工務店にイレギュラーで自由度の高いデザインを求められても、依頼者が満足できる設計の対応は難しい場合が多いと思います。ですので、デザインの自由度も重視するのであれば、設計事務所に依頼するのが良いでしょうね。

ちなみにハウスメーカーだとカタログから選んで家のプランを決める、というイメージなので、一番デザインに自由度が無いでしょう。

設計デザインの自由度

設計者金子の特徴

祐樹: そういうことか、だんだんわかってきました。やはり自分たちらしい家を建てるという点では設計事務所にお願いするのが合っていそうだと思います。
それで、さっき設計業務の話の中で「設計する人によってデザインに差が出やすい」と仰ってましたが、金子さんの設計した家の写真を見たときに、雰囲気があって洗練されていると感じたんですよね。その雰囲気を作っているのは、具体的にはどんなところなんですか?

金子: 鋭い質問ですね。それはこれまでの事例をよく見ていただいているということだと思いますので嬉しい限りです。

キッチンカウンター
燕あおうづの平屋(2023年竣工)

私の設計デザインの特徴は、天然の木材を積極的に使うという点が挙げられます。天然の状態の木材を無垢材(むくざい)と呼ぶのですが、外観や内装はもちろん、屋内でも目を引くカウンターテーブルなどに無垢材を効果的に採用することで、木の柔らかさや温かみを感じる落ち着いた雰囲気を表現できます。

雪の日リビング大開口
岩室の平屋(2021年竣工)

古くから木とともに生きてきた人間にとって、無垢材の表情や質感はとても落ち着くんですよね。住み始めてからも、紫外線による経年変化で年々少しづつ深い色に変化したり、使い込むほど角が取れて手に馴染んでくるところも木材の面白いポイントです。
ただ、あらかじめお伝えしておきたいことは、私が無垢材を使いたいから使っているのではなく、施主さんとの対話の中から必要と判断して採用している点です。無垢材を使うことは強制ではありませんのでご安心ください。

それと、デザインに直結してくるのが施主さんとのコミュニケーション、つまり対話です。人はそれぞれ習慣や趣味などのライフスタイルや家にかけられる予算が違うので、何気ない会話の中から好きなもの・嫌いなものを細かくヒアリングした上で施主さんご家族のことを理解していきます。そうして集めた情報を元に、施主さんが求める住みやすさや空間表現とは何かを基準に考えていくと、自ずとその人に合う雰囲気の空間が出来上がっていくわけです。例えば、景観の良い土地に家を建てたいということであれば、その景観を最大限活かすような家の配置にして窓を大きく設けたり、施主さんがすっきりとした空間が好みと判断できれば、無機質なエアコンも運転に影響が無い範囲で隠してしまったりしますし。

祐樹: なるほど。つまり、テンプレートみたいな型に当てはめて設計するわけではないんですね。

金子: そうです。ですので、これまでに建てた家とまったく同じ家を作ることはありません。松永さんにはお二人のライフスタイルに合った家を考えますよ。

瑠璃子: 自分たちだけの完全オリジナルの家ってことですよね!?まさにこれが憧れでした。

この記事のまとめ

  • 設計の業務は、設計業務監理業務を行う仕事。
  • 設計事務所の最大の強みはデザインの自由度
  • 代表金子の設計の特徴は、施主とのコミュニケーションを起点としたデザインアイデア

(連載2回目に続きます)