【第5回】古い家でも、耐震性能は高められますか?

中古住宅のリノベーション費用について考えてきた本間さんご夫婦。次に気になってきたのは、古い住宅の耐震性です。
築年数の古い木造住宅でも、耐震補強によって地震に強い家にすることはできるのでしょうか。
今回は、古い木造住宅の耐震性能をどのように調べ、どのように補強していくのか、金子さんに聞いてみることにしました。
古い家でも、耐震性能は高められますか?
美咲(妻): 築30年、40年くらいの中古住宅を見ていると、やっぱり地震が少し心配です。古い家でも、耐震性を良くすることはできるんですか?
金子: できます。ただ、どの家でも同じ方法で補強すれば良いというわけではありません。まず、その家が今どのくらいの耐震性能を持っているのかを調べるところから始めます。
健太(夫): 耐震性能は、どうやって調べるんですか?
金子: 既存の図面があれば、まず図面を確認します。その上で現地へ行き、建物の状態や壁の位置、基礎、床下、天井裏など、見える範囲を調査します。その情報をもとに、まず予備的な耐震診断を行います。

耐力壁って、何ですか?
美咲(妻): 耐震の話で「耐力壁」という言葉を聞くことがありますが、普通の壁とは違うんですか?
金子: 違います。家の中にある壁のすべてが、地震の力に抵抗しているわけではありません。地震や風による横からの力に抵抗する役割を持った壁を、一般に「耐力壁」と呼びます。
健太(夫): どうやって地震に抵抗するんですか?
金子: 木造住宅で分かりやすいのが「筋かい」です。柱と柱の間に斜めに木材を入れて、建物が横方向に変形するのを抑えます。ほかにも、柱や梁の外側に構造用合板などの面材を張って、壁全体で地震の力に抵抗する方法があります。
美咲(妻): 普通に暮らしている状態では、見えないんですね。
金子: そうですね。筋かいや接合部は壁の中に隠れているので、完成した住宅では確認できない部分も多いです。
壁を壊さないと分からないこともあるんですか?
健太(夫): では、購入前の調査だけでは分からないこともあるんですか?
金子: あります。例えば、図面に筋かいが描かれていても、実際にどのように取り付けられているかまでは、壁を開けないと確認できないことがあります。柱と梁の接合部にどんな金物が使われているのか、基礎と土台がきちんとつながっているのか、といった部分も同じです。
美咲(妻): そうすると、最初の耐震診断だけで補強方法を決めるわけではないんですね。
金子: そうです。まず見える範囲と既存図面から「予備診断」を行い、おおよその補強方針を考えます。
その後、工事が始まって壁や床を解体し、構造材が見える状態になったところでもう一度確認します。その結果を反映して詳細な診断を行い、最終的な補強計画を決めていきます。

健太(夫): 工事が始まってから補強計画が変わることもあるんですか?
金子: あります。実際に開けてみると、想定していた筋かいがなかったり、接合部の状態が違っていたりすることがあります。反対に、想像していたよりしっかり施工されている場合もあります。

耐力壁は、たくさん増やせばいいんですか?
美咲(妻): 耐震性を上げるなら、耐力壁をたくさん増やせば安心なんでしょうか?
金子: そう単純ではありません。耐震では、強さと同じくらい「バランス」が大切です。例えば、建物の片側だけに耐力壁をたくさん増やして強くすると、地震のときに建物がねじれるように動きやすくなる場合があります。
健太(夫): 強い壁を増やせば増やすほど良い、ということではないんですね。
金子: そうですね。まず、今ある耐力壁がどこに配置されているかを確認して、建物全体のバランスを見ます。その上で、耐震性能が不足しているところに必要な耐力壁を追加していきます。
耐震補強は、耐力壁をただ増やすのではなく、建物全体のバランスを整えながら必要な強さを加えていくことが大切です。

耐震補強は、壁だけを直すんですか?
健太(夫): 耐力壁の位置が決まったら、そこを補強すればいいんですか?
金子: 壁だけではありません。耐力壁が地震の力を受けても、その力を柱や梁、床を通して基礎まで伝えられなければ、建物全体として十分に働きません。ですから、必要に応じて柱と梁の接合部に金物を追加したり、床の剛性を高めたりすることもあります。

美咲(妻): 基礎も関係するんですか?
金子: もちろん関係します。耐震補強は、大きく考えると、土台から上の躯体部分と、その下の基礎部分に分かれます。上の建物だけを強くしても、基礎に大きな問題があれば十分ではありません。
基礎や地盤に問題がある場合はどうするんですか?
健太(夫): 基礎まで補強することもあるんですか?
金子: 状態によってはあります。ただ、基礎まで補強するとなると、工事は一気に大掛かりになります。さらに、その基礎を支えている地盤自体に問題がある場合には、地盤改良まで検討しなければならないこともあります。
美咲(妻): 中古住宅を買う前に、地盤についても確認できるんですか?
金子: 正確な地盤の状態は、地盤調査をしなければ分かりません。ただ、周辺を見ることで手掛かりを得ることはできます。例えば、周囲の塀が傾いていないか、道路に沈下がないか、建物に不同沈下を疑うような傾きがないか、といったところを確認します。
健太(夫): 建物だけを見ればいいわけではないんですね。
金子: そうですね。建物は、基礎、その下の地盤まで含めて成り立っています。
耐震補強をすると、間取りは変えにくくなりますか?
美咲(妻): 耐力壁が必要になると、広いLDKにしたいという希望は難しくなりますか?
金子: ある程度の制約はあります。ただ、耐震補強をするから間取りを変えられない、ということではありません。例えば取りたい壁が耐震上重要であれば、別の位置に耐力壁を設けて全体のバランスを取り直すこともできます。
健太(夫): 間取りと耐震を一緒に考えるんですね。
金子: そうです。「ここは家族が集まる場所だから広くしたい」「こちらは個室なので壁があっても構わない」というように、暮らし方と構造を重ねながら考えていきます。
必要な耐力壁を確保しながら、視線の抜けや部屋同士のつながりをつくることも設計だと思います。

どのくらいの耐震性能を目指せばいいんですか?
健太(夫): 耐震補強をする場合、どのくらいまで強くすればいいんでしょうか?
金子: 一つの目安になるのが、耐震診断の「評点」です。木造住宅の耐震診断では、評点1.0以上が「一応倒壊しない」とされる水準なので、まずはそこをひとつの目標として考えます。
美咲(妻): 1.0にすれば、それで十分なんですか?
金子: 何を求めるかによります。大きな地震で倒壊を防ぐことを第一に考えるのか、地震の後もできるだけ継続して住み続けたいのかによって、考え方は変わります。後者まで考えるのであれば、1.0ぎりぎりではなく、もう少し余裕を持たせて補強することもあります。
健太(夫): では、できるだけ評点を高くした方がいいんですか?
金子: 評点だけを高くすれば良いわけではありません。上部の建物を強くすると、その力を受ける基礎の強度も必要になります。耐震性能を大きく高めようとすると、基礎や地盤まで含めて検討しなければならない場合があります。
耐震補強で大切なのは、建物全体のバランス
美咲(妻): 耐震補強というと、弱いところに筋かいをたくさん入れるようなイメージでした。
金子: 実際には、もう少し建物全体を見ながら考えます。
まず現在の耐力壁の位置や建物の状態を確認する。その上で、配置のバランスを整え、不足しているところに必要な耐力壁を追加する。さらに、柱や梁の接合部、床、基礎まで含めて、地震の力を建物から地盤へきちんと伝えられるようにしていきます。
健太(夫): 耐震補強は、壁を増やすだけの工事ではないんですね。
金子: そうですね。耐震性能は、部分だけではなく建物全体のバランスで考えることが大切です。
この記事のまとめ
- 古い木造住宅でも、耐震性能を高めることはできる
- 耐力壁は、筋かいや構造用面材などによって地震や風の横方向の力に抵抗する壁
- 耐震診断は、既存図面・現地調査による予備診断と、解体後の詳細診断の二段階で考える
- 耐力壁は単純に増やすのではなく、まず建物全体の配置バランスを整えた上で必要な位置に追加する
- 耐震補強は耐力壁だけでなく、接合部・床・基礎、さらに地盤まで含めて考える
- 耐震診断の評点1.0以上をひとつの目安とし、必要に応じて余裕を持った補強を検討する
(連載第6回に続きます)
この記事の著者
金子 勉 Tsutomu Kaneko
美しい意匠設計に加え、高度な構造・設備設計までトータルで手掛ける建築家。無垢材などの自然素材を活かし、使い込むほどに味わいの増す空間と豊かさを実感できる暮らしを提案。新潟の風土に寄り添い、土地選びから建物診断、コンサルティングまで施主に伴走する家づくりを行う。